ターゲット中学英単語1800[四訂版]―難関高校にも通用するベーシックな単語帳

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タイトル高校入試 でる順ターゲット 中学英単語1800
出版社旺文社
出版年2019/6/13
著者旺文社編集
目的中学英単語(1800語)、難関高校入試対策(偏差値65まで)
対象現役生から大人の学び直しまで
分量440ページ
評価
AI例文の品詞分解を行いながら文法事項もチェック
レベル中学復習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

ベーシックな単語帳

 本書は旺文社から出版されている非常に有名なターゲットシリーズの中学版です。でる順にまとめられた本書は、まさに入試対策用の単語帳として王道の内容になっています。構成が一語一訳を基本としているため、中学版ながら小学生でも扱いやすく、勉強に不慣れな人であっても単純暗記できるのは利点です。中学版は単語の意味だけでなく、用法についても幅広く触れているので完璧に仕上げられたときには大きな力になります。

 高校入試対策用の単語帳として約1800語の単語を収録し、頭からでる順にまとめられています。でる順の利点は頻出の単語に絞って周回することも可能ですし、仮に途中で挫折してしまったとしても頻出の単語だけは覚えていられるところです。これは『速読英単語[中学版]』と比較するとわかりやすい。

速読英単語[中学版]』はハイスペックな単語帳ですが、唯一と言っていい欠点として“でる順”にまとめられていない点が挙げられます。高校版の「速読英単語[必修編]第8版」ではついに頻出度ランクの表記が追加されたため、いずれは中学版もランク表記が為されるとは思います。ただし、それでも長文の中に必要単語を収録する都合上、本書のように頭からでる順にまとめる構成は不可能です。つまり、速読英単語シリーズは最後までやり切って初めて網羅できる単語帳になっているということ。この点で本書は「誰でも気軽に取り組める」という評価を確立しているのです。

最後まで必ずやり切る前提なら速読英単語の欠点はないようなものです。しかしながら現役生の場合、いつどのタイミングで集中力が切れてしまうかわからないでしょう。しかも速読英単語の負荷は大きい。使いこなそうと思うと、単純な収録語数では語れない苦労があります。そう考えていくと、やはり本書が最も気軽に取り組めるベーシックな単語帳であることがわかります。

AIで例文を分析する

 本書は単純暗記型の一語一訳として周知されていますが、実際には一語一訳一例文まで捉えたいところです。全ての見出し語に例文があり、しかもその例文音声まで付属しています。これは数多くの類書が出てきた中で決して珍しいわけではないのですが、例文の質が高く、例えば動詞なら動詞の語法をしっかりと押さえられるものになっているのです。つまり、例文暗記まで行えた時には相当な力、スピーキングやライティング、リスニング、リーディングといった四技能が全て向上します

 ただし、それを行うには2つ問題点があります。1つは当然のことながら負荷が大きい。大きすぎると言っても良い。単語暗記だけでも大変なのに、例文暗記というのは現実的ではないと感じる人の方が圧倒的に多いと思います。そして、もう1つは例文の文構造を理解していないと力にならないことです。率直に「文法力」がないと意味がありません。当サイトでは単語よりも文法優先の方針を立てているのですが、これは文法理解が深まると文構造を正しく捉えられるからです。文構造を正しく捉えられるとは、有機的な意味のある英文として認識できること。等しくそれは日本語と同様にある種の納得感が付随するようになり、記憶の定着にも大きく繋がります。なので、言い換えると例文暗記が無理難題だと感じているうちは無機質な文としての認識が強いかもしれません。もっともそれを差し引いても大変であることは否定しません。

 しかし、今はAIによって例文を品詞分解・構造分析することが容易になったため、曲がりなりにも文法知識を備えている現役生、および大人であれば本書の例文も簡単にフル活用できるようになりました。結局のところ、単語を覚えるにしても例文には全て目を通して音読も必ず行います。そこにAIを利用して文構造の確認作業を加えると、曖昧な文法知識も改善され、エピソード記憶として残りやすくなるでしょう。本書はこのAIによる例文利用が最もやりやすいレイアウトになっています。

単語帳は単語を覚えるだけに終わりません。いかに工夫しながら使い倒せるか。何冊もの参考書に手を伸ばすよりも、単語帳一冊から余すことなく力を得てほしいと思います。それくらい単語帳一冊にはとんでもなく有益な情報がたくさん含まれているのです。

高校入試用の単語帳か、実用英語の単語帳か

 中学英単語は実用英語の観点から極めて重要な単語に位置づけられています。しかしながら入試用の単語帳では実用英語に役立つ情報はあまり含まれていません。単語の意味はわかっても、それをどのような場面でどう使うのかはわからないのです。しかも単語の意味は単語学習の本質的な部分ではなく、本当はコアイメージを捉える方が重要になります。人間は目的に応じて最適な思考の枠組みを構築しますから、入試を目的にすれば入試で得点できる単語の覚え方に終始します実用英語、例えば英会話を目的にすれば英会話に必要な単語の覚え方に終始します。何のために英語を勉強しているのか、という問いです。

 別の言い方をすると「中学英単語は実用英語の観点から極めて重要な単語に位置づけられる」というのは、実用英語重視の単語帳を選んだとしても入試対策はある程度兼ねられることを意味します。つまり、本書をはじめとした入試用の単語帳よりも実用英語重視の単語帳である『普通の英単語』が結果的に有益である可能性が高いということです。これはコアイメージ重視の単語帳と言い換えてもいいもので、決して入試対策が遅れるわけではありません。

誤解を恐れずに言えば、国内にいながら帰国子女のように入試攻略するのが理想になります。この方針はハイレベルな日本の入試英語になるとそのものに合わせなければなりませんが、そこまででないなら大は小を兼ねるように軽々と対応できるはずです。

 ただし、偏差値65以上の難関高校を受験するような層は限られた時間の中で結果を残さなければなりません。この場合なら高校入試に特化する単語帳を選ぶのも止む無しと考えます。しかし、それ以外の層は入試特化よりもその先にある将来のための勉強として価値のある単語帳を意識した方がより良いと強く思います。大人の学び直しなら基本的に実用英語一択でしょう。それにコアイメージを捉えられたときの利点はかなり大きいものです。覚えにくい熟語も前置詞と副詞のコアイメージを押さえられたときには覚えやすくなります。様々な単語帳を比較検討した結果、2025年現在『普通の英単語』と『DUO elements』を推奨するに至っています。

本書はとても良い単語帳です。ですが、従来からある入試用の単語帳を良くも悪くも引き継いでいるため、AI時代にいまひとつ合わないような気がしています。単語と熟語の2冊に分かれている点も、入試用の単語帳としての評価を落としています。特に現役生には1冊で済むなら1冊が良いでしょう。もちろん、どういう形であれ、重要単語である中学英単語を覚えることには間違いなく意味があります。決して本書を使ってはいけないわけではありません。

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