タイトル | 英文解釈要約精講 | |||||||||||
出版社 | 開拓社 | |||||||||||
出版年 | 2019/8/28 | |||||||||||
著者 | 峯村 純一郎、竹内 一誠、相原 仁郎 | |||||||||||
目的 | 英文の和文要約 | |||||||||||
分量 | 120ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・英文の和文要約を基礎から学びたい人
・英文を用いて論理的思考力を鍛えたい人
・要約の薄い参考書を探している人
【到達】
・英文の和文要約を基礎から発展まで押さえられる
・最大150字以内の要約ができるようになる
本書は1988年に初版が出版され、2019年に新装版として改めて発売された英文要約の名著です。大学の教科書を読んでいるかのような硬く濃密な語り口ですが、その分、要約のエッセンスをたった120ページにまとめられています。全体的に講義調というよりは整理に重きを置いた解説です。なぜ?を簡潔に埋めてくれますが、丁寧な解説とは少し異なります。
英文要約の参考書は意外と数が少なく、以前に取り上げた『英文読解のグラマティカ』の富士哲也先生による『英文要約のグラマティカ』や竹岡広信先生の『厳選30題で学ぶ!英文要旨要約トレーニング』、『東大の英語 要約問題 UNLIMITED』、高橋善昭先生の『英文要旨要約問題の解法』が主な選択肢です。しかし、英文要約の全体像や仕組みといった基礎的な考え方から学べるものは本書くらいかもしれません。その他はどれも問題演習と解説が中心、あるいは基礎から学ぶには少々難しいものになっています。
なお、英検では英文の“英文要約”が新たに出題されるようになりました。この系統の参考書はもっと少なく、現在は竹岡広信先生の『英検合格のための要約問題 予想問題集』とジャパンタイムズ出版の『最短合格!英検準1級 要約&英作文完全制覇』しかないと言っても過言ではない状況です。大学受験を含めても英文の要約問題が出題される試験は少なく、あっても基本的な和訳さえできればどうとでもなるものばかりです。結果、本書をはじめとした参考書は本格的な要約問題対策に絞られ、本当の意味で入門に位置づけられるものがありません。強いて言えば、英文要約以前の国語の要約参考書になるのですが、こちらも数がほとんどありません。それだけ要約のエッセンスを伝えることは難しいのもわかります。
本書の構成
Part I 基礎編 (Introductory Couse)
Part II 応用編 (Intermediate Couse)
Part III 発展編 (Advanced Couse)
Part IV 完成編 (Comprehensive Exercises)
EXERCISES 解答・解説
本書は、英文解釈の要素を入れつつ要約の考え方を学んでいくものになります。そのため、よくある英文解釈の参考書の構成と同じで「例題・語句構文・全訳」があり、その後に要約の考え方と答えが掲載されています。各章の冒頭に学習のポイントが1~2ページにわたって述べられており、基礎から応用、発展、完成とそれぞれの考え方を意識できるようになっています。「基礎的な考え方として〇〇を学んだが、次にある応用では△△を意識する」などです。
英文を正しく読むといったが, これは単にwordに対する辞書的な意味と, Grammarの知識だけではどうにもならない難しい問題を含んでいる. 学生の中には英語のwordを日本語のwordへ, sentenceを日本語のsentenceに置き換えることを読むことだと錯覚している者もいるが, wordとwordの, sentenceとsentenceの相互の響き合いを, さらにparagraphとparagraphの関係を読み取ることが必要である. さらに文の表層的な意味を理解するだけでなく, その深層的な意味をも感得することが要求される.
[新装版]英文解釈要約精講 「英文要約とは何か」より引用
この引用は本書冒頭で述べられているものです。要約が受験勉強の段階としても終盤に位置づけられ、必ずしも全ての受験生が取り組むレベルにはないこともわかるかと思います。国語の要約においてもそうですが、要約は言葉(段落・文章全体)の概念や関係性を正確に掴みながら行うため、抽象的な思考力と簡潔な表現力を要求されています。文章の要旨を失わない形で短くするとき、普段使っていない脳の筋肉を使っている高度な感覚があると思います。以前に国語力の強化のために哲学のような抽象的な文章を読むことをオススメしましたが、要約もまた大きな力になる訓練です。
実際の入試問題では粗削りなものでも掴むところを掴んでいれば得点できるので、本書のように綺麗な答えをしなければならないわけではありません。ただ、要約の参考書が少ない理由でもあるのですが、要約は添削が難しく、模範解答を参考にするだけでは足りない場面が目立ちやすいのです。著者にも高い能力を求められているため、安易に答えを鵜呑みにすると手痛い目に遭うこともあります。例えば、教学社から出版されている過去問『東大の現代文』では、なぜその答えになるのかの説明が足りずに酷評されることがしばしばあります。学校や予備校、学習塾の信頼できる先生に頼りたいのが本音です。
英文の和文要約の一冊目として
本書は現役生にもオススメの一冊ですが、使いこなせる人はそう多くないでしょう。全統模試偏差値65以上、かつ難関大志望が本腰を入れて要約に取り組む際に必要となるものです。120ページの薄さで要約の基礎から発展までを手早く押さえられる利点は類書よりも優れています。『英文読解の透視図』のような硬い文章に抵抗がないことも大切で、単に読み通せれば良いのではなく、しっかりと頭の中で咀嚼してエッセンスを吸収すること。
英文は論旨展開のパターンがある程度決まっている上に、日本語よりも論理が明瞭、要約の訓練としては日本語よりわかりやすいこともあり、使いこなせる人はそう多くないと言いつつも、使いこなせた時には国語力も飛躍的に伸びる期待を持てます。また、その意味では大人の学び直しにもオススメの一冊です。「要約」は普段使っていない脳の筋肉を刺激すると述べた通り、最初はどのように取り組めば良いのかわからないと思いますが、実は仕事で頻出する思考でもあり、平たく言うと“仕事のできる頭が良い人”は皆、本書で示されているような考え方を少なからずしています。
歴史科目から「知識をそのまま覚えるだけが全てではない」を学ぶように、目的に応じて、物事の捉え方を最適化する思考、本質を掴む考え方を要約からは学べます。国語的な文章に数学的な見方を導入するようなもので応用力は高いのです。
