『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』—レベル・難易度・特徴・評判【レビュー】

越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文
総合評価
( 4 )
メリット
  • 英文法を学習しただけでは埋まらない隙間の学習
  • 受験参考書に近い構成が取り組みやすい
デメリット
  • 一通り英文法を学習した人向け

日本人の英文法学習では必ず隙間が生まれる

 本書は参考書の分類ではないかもしれませんが、参考書の分類ではないからこそ記せた内容となっています。というのも、日本の英語学習というのは大学受験ビジネスが先行しすぎているため、どうしても試験で得点するための知識や技術が優先されやすいからです。

 しかし、そうした学習では、英米人的な発想で英語を捉えることができない弊害が生まれています。もともと日本語と英語は言語的な性質が大きく異なりますが、日本語と英語の言語的な差異を学校では詳細に教えません。教えないというより、先生に委ねられていると言った方が正しいでしょうか。

 言い換えれば、日本人でも英語学習できるように、まずは日本人寄りの発想で英語を捉えるところから始まっています。例えば、「そこまで歩いていけますか?」を日本人が英訳すると「Can I walk there ?」などと訳しがちです。これでも文法的な誤りはなく、日本の英語試験では得点できるかもしれませんが、ネイティブの友人に英訳をお願いしてみると「Is it within walking distance ?」と返されました。「Can I ~」の文では許可を求めているニュアンスが強く、伝わらないことはないけれど…とのことです。

 こうした日本人的な発想で英語を捉えている限り、英語学習の本質には近づけないことがわかります。本質に近づけないと、和訳がおかしくなったり、英文の深い理解が伴わないため、試験で得点できたとしてもスピーキングにおいては言いたいことが全く伝わらないということが当然のように起こります。

 その点で本書は、日本人的な発想で捉えたときに誤訳しやすい英文を合計140個掲載しています。参考書(問題集)に近い形式でまとめられているため、受験英語からの脱却はもちろん、受験英語そのものにおいても役に立つ内容になっているかと思います。それはやはり英米人的な発想で英語を捉えられた方が、文章の意味や主張の理解が早くなるからです。

 対象レベルは、英文法を一通り学習した人向けとします。英文法に取り組む前だったり、英語が苦手だった人には内容を十分に理解できないと思われます。学生の場合、英語の本質に気づき始めたくらいの段階なら強烈に印象付けられるかもしれません。まずは日本語と英語は大きく違うことを念頭に置き、英文法の学習に取り組みながら、ふとしたときに手に取るとき本書の良さが際立ちます。

 大人の学び直しなら、最初の方に本書を軽く読んでおくのも大いに効果的と思います。全体的に大人が楽しんで読める内容です。英語を話したいなら英米人の発想や思考を学ぶ。日本語でも同じことが言えますよね。

受験脳では伝わらなかった他言語の発想

 学生時代に先生が「英語ではこういう考え方をする」といった知識は単なる豆知識としてしか関心を示していませんでした。発音やアクセントも同様に、スピーキングは試験で問われなかったからです。

 しかし、大人になってこうした文章を書きながら自らの日本語能力と向き合っていると、英語を学び直そうと思ったときに英語的な発想の重要性に気づきます。先述したように、言語的な性質が大きく異なることを実感するからです。英語には英語のルールがあることは英文法で理解しても、なかなか発想までは届きません。

 もっともそのような弊害を承知している上位層の大学では、受験英語と言えども英文和訳や英作文によってある程度解決することを意識しているのだろうと思います。特に昨今の実用的な英語力の流れからも、よりいっそう強まっているでしょう。

 また、海外留学経験があったりすると、どこかでブレイクスルーが起こり、英米人らしい英語に近づけるのではないかと思います。言い換えれば、アウトプットが発想までの道筋をつくるのだろうと想像します。他言語を話すとは、日本語とは似ても似つかない言葉を操るだけではなく、思考や発想までも近づける行為。その点で環境(周囲の人間)と類似、同化する性質を最大限活用できるのが海外留学なのでしょう。

 これは個人的に興味深い事実です。操る言語によって思考や発想までも変化するとは、少し大げさに言うと、人間は言語で世界を捉えているとも解釈できます。言語を切り替えると、世界が変わる。日本語なら言い表せるが、英語では言い表せられない。つまり、日本語なら捉えられるが、英語では捉えらないということ。

 英語を話せると、海外旅行が楽しいだとか、洋画や洋書を楽しめるだとか、趣味の幅が大きく広がる実用的な利点はもちろんですが、個人的にはその世界が変わる感覚を味わいたいという想いがいちばん強いかもしれません。

 他言語の発想の重要性に気づき始めると、杓子定規な英文法というより、日本人的な発想を強めてしまう英文法学習に問題の本質がありそうですね。

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