英文解釈Code70―難関大の英文解釈を1冊で行う

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タイトル英文解釈Code70
出版社かんき出版
出版年2024/7/10 1760円
著者杉村年彦
目的英文解釈
分量256ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・全統模試偏差値60前後
・MARCHレベルの英文を読み始めた人、読める人
・旧帝大、早慶レベルの英文に難しさを感じている人

【到達】
・旧帝大、早慶上理の英文を正確に読むための考え方を学べる
・精読と速読の使い分け(文章予測)も学べる

 本書は難関大向けの英文解釈です。著者の杉村先生が本書の中で『英語リーディング教本(以下:リー教)』の影響を受けたと語っているように、品詞分解と構造分析を意識した思考プロセス重視の英文解釈に仕上がっています。例文はほぼ全て難関大の過去問になっており、難関大に必要な英文解釈のポイントを70(60講義+10コラム)にまとめています

 難関大対策の英文解釈と言うと、名著として語り継がれる『英文読解の透視図』や『英文解釈教室』などがありますが、どうしても要求するレベルが高く、さらに現代の入試傾向も反映されていないわけですから、いくら英文の読解方法が変わらないとは言え、現役の受験生にはなかなか推奨できるものではありません。加えて、これは持論になりますが、旧帝大・早慶対策としての英文解釈は“思考プロセス重視”がオススメです。

 思考プロセス重視の英文解釈とは、本書や『ポレポレ英文読解プロセス50』のような筆者の読み解き方をリアルタイムで解説してくれるものです。なぜ、思考プロセス重視を推奨したいのかというと、ひとえに頭の良い人の考え方を真似てしまった方が手っ取り早いからです。これは数学でも同じ。問題の解き方を教わるのではなく、その問題を解く姿を実際に見る方が自分にとって必要な考え方に気づきやすい。問題の解き方を学ぶとは、問題を解く姿を見て理解するための下地と言い換えても良いですね。

文章の最初と最後の方、大切なことが書かれてある可能性が高いのはどちらでしょうか?私の指導経験では、「最後の方」と答える生徒が多数派です。しかし、正しい答えは「最初の方」です!
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第1パラグラフや第2パラグラフはスピードを上げて読む箇所ではなく、丁寧に、大事に読むべき箇所です。ここでテーマや主張をつかめたら、ゴールがわかり、この文章が進む道筋が見えた状態です。スピードを上げて読み進めましょう。メリハリをつけて読むことで、速さと正確さを両立できます。

英文解釈Code70 P141より抜粋

 本書は一般的な英文解釈に備わる情報だけでなく、上記の抜粋した文章にあるようなコラムも役に立ちます。常に現場目線と言いますか、杉村先生の解説は生徒に寄り添うような優しい印象を覚え、現役生は全体的に読みやすく理解しやすいと思います。『ポレポレ英文読解プロセス50』の西先生に近い雰囲気を感じました。

一方で欠点を挙げると、まずレイアウトの問題として例文の訳出が常に決まった位置にないことです。思考プロセス重視の英文解釈にはよくあることですが、著者の解釈の観点から「まずは〇〇を見て、次に△△を考えて――」などと進む過程で訳出が登場します。例文の訳出が見直しにくく、一覧にもなっていません。音声が付属しないことも欠点です。また、なぜ英文の構造が日本人には複雑に見えるのか、英米的な発想とそれに基づく必然性の解説が弱く思えました。

 ただ、リー教を意識した解説は難関大対策として上手く機能しています。個人的に本書は『ポレポレ』と最も競合していると考えていて、本書を選ぶ最大の利点はここにあると言っても過言ではありません。難関大未満までは「なんとなく」でも得点できることがそれなりにあるのですが、例えば東大英語にある「語を削除する問題」にしても、難関大になるほど曖昧な知識と理解は厳しく追及されてしまうことがわかるでしょう。『リー教』のエッセンスはそこまで精緻に読めていない受験生たちに大きく刺さるわけです。

『リー教』は品詞分解・構造分析を徹底的にトレーニングする参考書になっていますが、本書はそれを意識づけさせる程度なので気軽に取り組めます。

本書に取り組む前の参考書は?メインターゲット

 まず、文法書だけでどこまで正確に読めるか。大学入試で言うと、入試基礎・共通テストレベルなら文法書の知識だけでも読み解けるはずです。一方、複雑な構造を持つ英文が出題される難関大では、一般的な文法書にある知識だけでは足りない――というより、文法知識の適用が難しくて読み解けなくなります。そこで英文解釈が必要になるというのが基本的な考え方です。参考書ルートにあるから英文解釈に取り組むわけではありません。

 事実、人によって英文解釈は難関大(特に早慶)を受けるなら必要になるけれども、難関大未満なら必ずしも必要ないと言うでしょう。どうにも読み解けない英文と出会ってから、英文解釈の参考書で勉強したという人もいるはずです。ただ、文法知識を正確に身につけているとは限らない、もしくは最初から読解に適用する考え方を身につけたい人にとって、肘井先生の『読解のための英文法[必修編]』のような基本的な英文を取り扱った参考書は有用になります。

 本書はシリーズ化されていないので前後の接続がうまくできません。できないのですが、その事情から本書一冊だけでも十分と言える可能性があります。難関大対策と謳いながらも、そこまで難しいものばかりというわけではありません。例えば「名詞の役割を把握せよ!」や「It is X that ~の判別」などは必修レベルにあってもおかしくないでしょう。しかも難関大対策にして60講義は多めです。つまり、本書のメインターゲットはすでに全統模試偏差値60前後にある難関大志望と考えられます。難関大対策の英文解釈を一冊で終わらせたいならオススメ。なお、本書の前に一冊挟むなら『読解のための英文法[必修編]』や『入門英文問題精講』がちょうど良いと思います。

難関大志望が躓きやすいところを学ぶという意味では『英文解釈クラシック』もあります。個人的には思考プロセス重視が好きなので、どちらか一冊を選ぶなら本書を推します。

AIによる品詞・構造分析の導入

 英文解釈は難関大未満なら1冊(人によっては無くても可)、難関大志望なら基本は2冊になると思います。得点できる程度の解釈ができれば十分ですから、ハイレベルな和訳問題が出題される最難関国公立などの例外を除くと冊数はできるだけ減らしたいところです。言い換えると、文法知識を正確に身につけ、多読多聴の段階を充実させてほしいとも言えます。

 そこで現在はAIによる品詞・構造分析が非常に有効な手段なので、読み解きにくい英文に出会うたびにAIの力を借りてしまうのも手です。参考書というのは志望校によって必ず過不足が生まれますが、重要事項を押さえることに関しては常に優先できます。本書で難関大の重要事項を身につけ、その後はAIによる品詞・構造分析で枝葉を押さえていけば過不足による効率低下も最小限で済みます。これは受験生が足りなくなりやすい多読多聴(アウトプット)を充実させる意図もあります。

 それなら本書にも取り組まず、最初からAIの力を借りてしまうのはどうか。これは今のところ推奨しません。大学入試の重要事項の知識は参考書にまだ優位性があり、重要事項を身につける過程で伸びる思考力と知識がAIとの対話の質も上げるからです。しかも枝葉だけで押さえていく方針はより良い体系化が為されるとは限らず、優先順位も不明瞭になります。一言で言えば、悪い意味で偏ります(最初から偏っている大学なら良い)。2025年現在の大学受験攻略としては、第一に参考書で重要事項を手早く押さえ、その後はAIを活用しながらアウトプット(過去問や予想問題集など)を中心にする戦略だと思います。

もともとアウトプット中心の戦略は優れていましたが、アウトプットがきちんと意味のある学習になるかどうかには個人差がありました。質の低いアウトプットは逆効果。その個人差を生むものはインプット、基礎固めの仕方です。しかし、今はAIによってアウトプットの質をある程度高められるため、インプットが多少甘くなったとしても損失は小さくなったわけです。以前よりも積極的にアウトプット中心の戦略を選択できます。

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