中学国語力を伸ばす語彙1700―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル中学国語力を伸ばす語彙1700
出版社文英堂
出版年2015/2/7
著者吉岡 哲
目的中学国語の語彙強化
分量336ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・基本語彙を強化したい子供から大人まで
・国語力に不安を覚える高校生
・国語力を強化したい中学生

【到達】
・中学国語の語彙を網羅できる
・高校の勉強に必要な語彙力が身につく

 当サイトで取り上げるまでもなく、非常に有名な参考書です。2015年に出版されてからしばらくは注目を集めていなかったのですが、おそらく「授業しない」をキャッチコピーにする武田塾の参考書ルートの影響によって2020年ごろから爆発的にヒットしました。2015~2016年にはこうした中学国語の語彙力を強化する参考書がいくつか出版されており、例えば当サイトでも取り上げた『中学国語力を高める語彙1560』は2016年出版で本書とわかりやすく競合しています。それ以降、類書が数多く出版されているものの、正直どれも鳴かず飛ばず、選ばれるのは本書ばかりです。

 基本的に本書は難関高校入試対策として用いられる参考書になりますが、勉強の基礎は国語力であり、大学受験のために必要な高校以前の国語力強化という大きな需要を獲得しました。それに加えて、大人の教養目的としても中学国語は注目を集めており、評判が評判を呼んで本書が覇権を握ったという経緯です。もちろん、類書にはない本書だからこその価値もあり、実際にそれをまとめようと思います。

10年の時を経て『書いて覚える!中学国語力を伸ばす語彙1700ノート』も発売されています。国語力は国語だけの問題ではなく、全科目の学習効率を決定づけるほど重要です。漢字練習の他、そうした書き込み式で徹底的にトレーニングするのも良い選択です。

本書の構成

[評論]
言葉に関する語―表現/文芸
社会に関する語―政治・経済/人間関係
文化に関する語―考え方・生き方/宗教
自然・科学に関する語
対で覚える語

[小説]
心理を表す語
態度を表す語
様子を表す語
動作・行為を表す語
性質・人物を表す語
人物の関係を表す語
情景・状況を表す語

[成語]
慣用句―身体に関する語/動植物に関する語/その他

[評論文を理解するための重要語]
真理・逆説、象徴、グローバル、媒介・メディア、自我・アイデンティティ、美意識・無情、必然・偶然など

※難しい語には(難)マークがついている
→中学校までに習わない漢字を含む語、日常会話には出てこない語、専門的な用語、昔は使われていたもの
※全ての漢字にフリガナがある
※付属の赤シートは意味(単語→意味)だけでなく、単語を隠すこともできる(意味→単語)
※付録として最後に同訓異字を取り上げている

 まず、全ての漢字にフリガナがあります。『中学国語力を高める語彙1560』にはその配慮がありませんでした。中学生を対象にした語彙を強化するものにもかかわらず、意外と徹底されていない参考書があります。

 次に、用語の選出が適当です。漢字学習に含まれているものもありますが、基本的に文章(評論/小説)で頻出する用語をしっかりと選んでいます。こうした参考書では「四字熟語」の項目にマニアックなものが含まれていることも珍しくない中で、私たちが日常的に見聞きするレベルの自然と大人が身につけているものが大半です。高校以降の文章で当たり前のように出てくるものばかり。

 最後に付録としてある「同訓異字」も、文章を読む上であるに越したことはない知識なので収録されているのはありがたい。全体的にこの手の参考書として押さえるべきところを押さえているので完成度は高いです。欲を言えば、以前に取り上げた高校生向け『入試現代文の単語帳 BIBLIA2000』のように単語を使用した例文を全て入試問題にできたら良かったのにとは思いました。こうした参考書は“意味だけ知って終わり”では期待するほどの実力にならず、必ず複数の例文で多角的な概念形成を行えるようにしたいのです

国語力を伸ばす一つの方法として「語彙力の強化」は間違いありませんが、言葉を知っているよりも、言葉のコアイメージを捉えられている方がより良い。これは英語でも同じです。そして、コアイメージを捉えるには良質な文に数多く触れること。良質な文とは、入試問題であれば事足ります。今ならAIに出力してもらうのも大いに有効です。

本書の接続先

 中学国語の漢字と語彙を押さえたあとは引き続き『高校生の語彙と漢字ゴイカン』で高校以降も押さえるか、『上級入試漢字・語彙』にさらなる網羅性を求めるかになります。どちらも収録されている語彙600語は大学入試レベルなので、本書のあとの接続先としてはベストです。ちなみにZ会の『現代文キーワード読解』などは(どちらかと言えば)語彙力強化というより現代文頻出のテーマとキーワードの理解を深めて読解速度を上げるためのものになります。

 本書とそれらの参考書で中学・高校の国語で必要となる語彙を2000語以上を押さえられるので最難関大を想定しても十分です。英語で全文を訳出する必要がないのと同じで問題を解くだけならもっと少なくて済む可能性もあり、本書だけでも偏差値55までは通用します。

 ただし、大学受験を想定した中学復習なら必ず受験期前に本書を終わらせる必要があります。どんな科目も基礎用語はできるだけ早い段階で身につける必要がありますが、それは受験勉強の中で数え切れないほど目にする、すなわち知っているかどうかによって文章から得られる情報の質に大きな差が出るからです。基礎固めは複利のように効いてくる。この質の差は当然結果も左右します。

漢字と語彙の知識は前提に過ぎませんが、偏差値65未満の大学なら知識さえあれば読み解ける文章の方が多いです。そこから例えば京大のような抽象性の高い文章だったり、早慶のような社会的・政治的・文化的な文章だったりを読解しようと思うと、単なる知識の状態では足りず、表現まではいかないにしても、大人と同じような視座から読むために思考力を引き上げる訓練が別で必要になります。

一段高いところから文章を読むには

 小学校から中学校、中学校から高校と文章のレベルが高くなるタイミングで躓く人は多くいますが、逆にそれぞれ一段階高いレベルから文章を読める人にとっては勉強の苦労が大幅に軽減されています。勉強の苦労とは、少し難しい文章を理解できないことから始まっています。私たち日本人にとって日本語の文章は誤魔化しが利くため、そうした問題点から目を背けやすい事情もあります。薄っすら理解できていないものを理解できないまま放置した結果、勉強についていけなくなるわけです。心当たりがある人もいるでしょう。

 では、一段高いところから文章を読むにはどうしたら良いのか。本書のような参考書を用いて言葉をより多く知ることは必須ですが、それだけでは足りず、正確に読み解ける力にまで変える必要があります。単純暗記から理解にまで成長させること。つまり、知識を備えたあとに数多くの文章を読み解くのです。

 本をたくさん読むのではなく、たくさん理解することが大切です。確かな理解を求めるとき、脳に負荷がかかります。筋肉の成長のための筋トレと同じで、負荷のかからない行為をいくら続けても成長はありません。読めない漢字に出会ったときに調べるという行為も面倒ですが、そこを乗り越えないと知識を得られませんよね。もちろん、これだけとは言いませんが、負荷から逃げずに向き合うだけで言葉(文章)に対する解像度がどんどん上がり、情報としての質も向上すれば頭に入るものも多くなり、雪だるま式に頭が良くなっていきます。事実、言葉を知る前後が最も思考力の差を実感するはずです。

では、どんな文章を読めば良いか?というと、抽象性の高い文章(哲学など)をオススメします。具体的な事物に関する文章は写真イメージによって補完されてしまうため、言葉の持つ抽象的な概念形成を行えないからです。そこは数学でも良いのですが、国語的な文章なら哲学のように言葉の意味、概念を上手に形成できない(掴めない)と理解が進まないものがベストです。理想的な負荷になります。

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