スタートダッシュ中学数学―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトルスタートダッシュ中学数学
出版社東京出版
出版年2003/2/25
著者高校への数学編集部
目的中学数学の復習
分量96ページ
評価
レベル中学復習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・中学受験を終えた小学生
・大学受験のために中学復習をしたい高校生
・中学数学を手早く復習したい大人

【到達】
・中学数学の基本的な用語と計算を身につけられる

 本書は『中高一貫の数学』の記事にて少し触れた東京出版から出版されている中学数学の参考書です。中学受験を終えた小学生向けに100ページにも満たない分量で中学数学を概観できるようになっています。東京出版の参考書はどれもこれも難関校向け(偏差値65以上)と言っても差し支えなく、並の現役生は手を出さない方が無難です。本質を突いた解説は非常に参考になるのですが、当たり前のレベルが高く、数学が得意な人でないとはっきり言ってやる気が削がれる部分があります。

 その中で本書を取り上げた理由は、大学受験のための高校数学の基礎となる中学数学を手早く復習できる参考書としてちょうど良かったからです。前回の『中高一貫の数学』は大学数学の土台作りをコンセプトにしている点が魅力でしたが、後述する『入門問題精講』によって中学数学の復習を部分的に含んでいるなら不要なのではという考えに傾きつつあります。まだまだ活用できる可能性はありますが、ターゲットが想像以上に限定的で積極的には薦めにくくなってしまいました。

 それと比較すると、本書は中学数学3年間分をたった96ページ(解説と練習問題)にまとめている利点が大きく、高校数学『入門問題精講』に取り組む前にさらっと中学数学を復習する目的ならかなり使いやすくなっています。高校数学の土台となる中学数学の復習として理想的な位置づけになる期待感の大きな一冊です。

『中高一貫校の数学』に比べたら、間違いなく本書の方が万人向けです。

入門問題精講への接続と注意点

 本書から『入門問題精講』への接続は良好です。中学数学の復習には教科書も有用ですが、教科書は3冊ある上に一から解説されていますから、中学数学を完全に忘れてしまった人以外は本書で十分です。多少忘れてしまっていたとしても『入門問題精講』なら中学数学の重要事項を拾いながら解説してくれています。改めて『入門問題精講』を見直しましたが、高校偏差値50~60にはベストな一冊と言って良いかもしれません。大人の学び直しにも適した優秀な参考書です。

 ただ、中学数学の復習の量には議論の余地があります。単純な知識があるだけで高校数学に対応できるかというと、何とも言い切れない判断の難しさがあります。まず、中学数学の復習としての高校入試はどうなのか。誤解を恐れずに言えば、中学数学と高校入試は別物です。学習指導要領に基づく中学数学は教科書で完結していますから、そこから発展的な問題を扱う高校入試(特に難関高校)は教科書の難易度との乖離が大きくて“過剰学習”と考えられてもおかしくありません。高校数学を勉強したいなら、中学数学の教科書から進んでしまっても本来は問題ないはずです。

 しかし、思考力という意味では活かされています。もし、東京出版の『レベルアップ演習』や『Highスタンダード演習』など高校入試用問題集にしっかりと取り組めたら、少なくとも高校数学の入試基礎までは躓かないだけの思考力が備わるでしょう。教科書の用語と基本計算だけを押さえた人が「中学数学」よりも難しい「高校数学」に対応できるかはこれもまた疑問なのです。高校数学よりはシンプルな条件の中で、すなわち中学数学で思考力をある程度まで伸ばした方が段階的な学習になる可能性は否定できません。高校数学に進んでしまったら、思考力の訓練が積みにくくなります。

例えば、小学算数のつるかめ算は中学数学の方程式で代替されるようになります。方程式を覚えて以降はつるかめ算を使うことはありません。こういう関係にあるものはさっさと先に進んだ方が良い。過剰学習とは、中学数学の範囲に無理やり収めた高校以降は出題されない問題を解く学習です。そうした点を踏まえると、どちらかと言えば先に進むことを優先したいのですが、高校受験を頑張った人よりも高校数学の学習時間が長くなるリスクは受け入れなければならないと考えています。入試数学の感覚的な理解が進まない点も気にかかります。

中学数学全体を見直したい中学3年生以上にオススメ

 中学数学の参考書は数多くあれど、中学生にもわかるように丁寧な解説を備えている参考書が一般的で、本書ほど簡潔にまとめられているものはほとんどありません。小学算数に比べて中学数学は難しいと言っても、数学の参考書の丁寧な解説には限界があります。しかも小中学生にはテキストの理解という壁がありますから、解説より“これさえ覚えておけば良い”と割り切らせてくれる本書の利点は大きく感じます。

 ただ、中学受験を突破した小学生向けの本書の解説は思っているよりも完成されているため、一般的な適正は高校入試対策を始める中学3年生あたりからになると思います。平均的な小学生には全く推奨できません。本書は中学数学を概観するための参考書と謳っていますが、練習問題から入試問題の解法パターンもそこそこ網羅できるので、高校偏差値55くらいまでの公立高校に合格できるだけの力はつく気がします。応用力が高い子なら60に到達しても驚きはしません。教科書の問題は易しすぎますが、本格的な入試問題は復習として時間がかかりすぎてしまいます。その中間(易しい寄り)に位置する本書は色々と都合が良いと思います。

 また、大学受験から初めて本格的な受験勉強をする人は単なる知識の復習だけではなく、入試数学の理解まで深められたら理想です。入試数学は「パターン認識(解法暗記)」で行い、「問題の傾向」がある程度決まっていることを知る必要があります。パターン認識(解法暗記)とは、問題を見た瞬間に意図を把握し、解法を頭に思い浮かべること。難問以外は「結局、やっていることは同じだよね」と実感できることが大切です。問題の傾向とは「基礎と応用の違い」や「単元ごとの問題の種類」など入試数学の大局観のようなものです。ここに高校受験の時点で気づけると、大学受験における数学の勉強も本質的には同じで方針が定めやすくなります。

中学数学は小学算数と同様に、頭で理解するよりもまだまだ身体で覚えたい段階と思っています。反射的に計算できること、問題の解法が瞬時に頭に思い浮かぶこと。それを目指すには本書の問題数だと十分と言えませんが、先に述べたように復習は最低限にして高校以降で大量の問題に触れる方針なら大きな懸念にはならないはずです。高校数学の『白チャート』を多くの人に推奨する理由もここにあります。

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