新装版 数学読本―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル新装版 数学読本 (全6巻)
出版社岩波書店
出版年・価格2019/5/25
著者松坂 和夫
目的・分類大学数学のための中学・高校数学
問題・ページ数226ページ
総合評価
対象・到達レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達レベル

【対象】
・中学、高校数学の学び直しを考える大人
・受験に縛られない学問としての“本格的な”数学を学びたい人

【到達】
・大学数学の入り口まで

 本書は松坂和夫先生が書いた「数学の教科書」と言ったらわかりやすいと思います。学習指導要領や受験の制約も受けていない学問としての数学を味わうことができます。一般的な教科書や参考書よりも自由に、大学数学の入り口まで丁寧な語り口で案内してくれます。このコンセプトからして、大人の学び直しにはこれ以上ない書籍ですが、素晴らしい内容ゆえに現役生にも非常にオススメです。

 そして、松坂和夫先生は大学数学の入門書として『集合・位相入門』『線型代数入門』『代数系入門』『解析入門(上)』『解析入門(中)』『解析入門(下)』の全6巻も出版されています。つまり、本書のシリーズ全6巻と併せて大学数学の基礎教養レベルまで網羅できるようになっています。

 ちなみに大学数学の場合、著者によって解説や証明、行間の具合も異なるため、ひとりの著者に頼るのではなく、複数の著者をレベルに応じて使い分けるのがオススメです。「大学数学の入門は全く入門ではない」とはよく聞く話ですが、松坂先生の著書に関しては確かな入門書と言えるほど理解を深めやすいことに定評があります。もちろん、そうは言っても全く簡単ではありません。

大学数学の参考書は、大学受験用とは比較にならないほど誤植が見つかります。しかし、松坂先生のものはそれがほとんどありません。これは当たり前のようでいて、大学数学の参考書の現実を知っている人にとっては非常にありがたいことなのです。

受験対策として役に立つか

 こういう問いの立て方は失礼かもしれませんが、中学復習を含み、なおかつ大学数学への接続も意識した高校数学の理解度を向上させる参考書として有用なのではないかとつい考えてしまいます。というのも、学校の授業では中学なら中学、高校なら高校という区分に影響を受けた教え方にならざるを得ないからです。極限の説明然り、それは誤解を招かないのかというと肯ける人は少ないと思います。理解を妨げるとまでは言いませんが、中学・高校数学の正しい姿を鳥瞰するには、自由な立場から解説されているものはあった方がより良いでしょう。

 言い換えれば、今は受験数学の問題を解く方向に引っ張られ過ぎているところがあります。「数学=解法暗記」と言わんばかりに問題を解くことばかりを本質と解釈してほしくないはずです。大学以降の数学を数学らしい本来の営みとすれば、そうした数学が表現する世界が中高生に伝わっていないため、伝えられる人が少ないため、結果的に「数学=解法暗記」の認識を加速させているところがある気がします。そこで本書です。

 解法暗記では見えてこない豊かな数学の世界を垣間見せ、教科書を軸にした受験戦略の欠点としてある「数学」そのものへの理解の乏しさも解消してくれるでしょう。本書を読むと、数学的な広がりを実感できます。教科書の内容ほど簡潔すぎず、例題や練習問題は単元の内容を数学的な操作によって理解することを目指している点も高評価です。しかし、中学・高校の数学とは言え、内容は一般的な教科書よりも難しく、本書の内容に興味を持てる現役生はおそらく受験数学でも好成績を残している可能性が高い。矛盾するようですが、やはり問題を解けるという実利的な方向を見せた方が良いのかもしれないともこれを書きながら思いました。大人の学び直しなら誰にでもオススメです。

本書は体系的な教科書のように利用できる稀有な参考書ですが、数学そのものへの理解を深めるなら遠山啓先生の書籍もオススメです。『無限と連続』『数学入門 上下』『数学の学び方・教え方』『人間と数学』などが読みやすいと思います。

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