書いて深める日本史 論述問題集 第2版―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル書いて深める日本史 論述問題集 第2版
出版社山川出版社
出版年2024/7/26
著者本保 泰良
目的日本史論述対策
分量192ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・日本史選択する全ての人
・教科書を深く読みたい人
・論述を入門から学びたい人

【到達】
・論述に必要な視点と基礎的な表現力が身につく

 本書は2024年に歴史の教科書で有名な山川出版社から出版された日本史論述の問題集です。歴史の教科書を出版している強みを活かし、本書の論述は全て教科書を参考にできるように作られています。問題ごとに教科書の参考ページが添えられ、その中から論述に必要な要素を探し出せる形です。

 文章を書くことに慣れるための「Basic問題」40題と、思考力・表現力を鍛える「Advanced問題」108題の合計148題は他の論述問題集と比べて多く収録されています。他方で同じような論述の入門問題集として出版されている駿台文庫の『スタートアップ日本史論述問題集』は、明確に入試を意識した問題集になっています。全ての問題が過去問。さらに問題意図の把握から論点の整理まで丁寧に解説しています。

 本書は問題の解き方を学ぶより、論点の把握に重きを置くオリジナル問題で構成されています。教科書の傍用問題集と言っても差し支えないものですから、論述を通じて教科書を深く読むための問題集に位置づけられます。だからと言って全く入試対策にならないわけではなく、入試基礎(地方国公立や中堅私大)までなら得点に結びつきます。

効率良く得点したいなら『スタートアップ日本史論述問題集』を選ぶべきかというと、そうとも言えません。まず問題数が少ないため、論述の基本的な考え方を学ぶ位置づけです。また、前提知識として教科書をある程度理解している必要もあります。それが足りないと、問題と答えを覚えるだけの取り組み方になり、論述に必要な考え方が養われません。本格的な論述対策は、入試の論点を意識しながら正しく教科書を読めるようになってから取り組まなければ意味がないのです。

オリジナルの教科書づくりにも

 入試問題は教科書から作成されると言っても、教科書には要点が書かれてあるだけで問題を解くために十分な情報がないこともあります。用語の空所補充なら教科書で十分ですが、正誤や論述問題となると心許ないのは事実です。こうした問題には授業や講義系参考書、史料集、用語集を用いて情報を補完していく必要があります。志望校に合わせた情報を補完したオリジナルの教科書をつくる人もいます。

 本書は教科書~入試基礎レベルの論点が収録されているため、目的を問わず、全ての人が取り組んで損はありませんが、基本的に歴史科目というのは効率を意識すると共通テストなのか、国公立なのか、私立なのかによって勉強法が変わります。数学や英語のように大は小を兼ねるということがありません。細かな知識を覚えたけれど、全く使わなかった。論述のための論点を網羅したけれど、それより細かな知識を覚えるべきだった。というようなことが起こり得ます。必ず志望校に合わせた知識を体系化してほしいのです。情報の取捨選択が大切。

わかりやすいところでは一問一答です。東進ブックス『日本史一問一答[完全版]』などは早慶志望でもなければ手を出す必要はありません。難易度別に分かれているのでMARCH志望が使用しても悪くありませんが、「もっと覚えなければならない」という焦りを生まないか、「本当にここまでの情報量が必要になるのか」という線引きは常に意識しておくべきです。

入試に合わせた教科書の読み方を学ぶ

 以前に紹介した『歴史総合/日本史探究 流れと枠組みを整理して理解する』と『歴史総合/世界史探究 流れと枠組みを整理して理解する』は歴史総合も含み、入試に合わせた教科書の論点を意識するために有用でしたが、テキストメインの参考書だっただけに現役生には少々薦めにくかったのも事実。その点で本書は論述問題の形式で教科書を参照できるため、現役生には使いやすくなっていると思います。

 現役生からすると、全ての大学で課せられるわけではない論述問題は特殊なものに映るかもしれません。国語の小論文に近い。しかし、論述は受験勉強を行う上で重要な能力を養成できる優れた問題形式です。端的に言えば、入試に必要な疑問(なぜ?)を抱きながら教科書を読めるようになります。例えば、「鎌倉時代における御家人と幕府の関係について100字以内で説明せよ」とあれば、教科書を読む際に御家人と幕府の関係を意識しながら読めますし、場合によっては授業や講義系参考書などでさらに補完するかもしれません。この見方ひとつあるのとないのでは、教科書から得られる知識に雲泥の差がつくのもわかるでしょう。

 日本史にはこうした論点が無数にあります。論点を意識しながら読むだけで理解は自然と深くなるわけです。論述は国公立と一部の私立でしか出題されませんが、本書のような入門書なら日本史を選択する全ての人に取り組んでほしいものになります。とにかく覚えるものばかりという漠然とした日本史の科目像から、試験で問われる日本史の科目特性を理解できれば、受験勉強の効率も飛躍的に向上します。大学側としては優秀な学生を選抜するために、日本史の科目だからこそできる要求でふるいにかけたい能力があるということ。本書は入試に合わせた教科書の読み方を学ぶにはうってつけの問題集なのです。

何事も目的に応じた最適な思考の枠組みがあり、その枠組みの中で知識を整理すること。大学受験は仕事のように取り組むとも述べているのですが、日本史を学ぶのではなく、大学受験の日本史を勉強する意識が大切です。差し迫った試験対策のない大人の学び直しなら、日本史を学ぶ意識が大切です。視野を狭くすれば効率性が、広くすれば創造性が伸びるという話でもあります。

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