タイトル | 現代文と格闘する[三訂版] | |||||||||||
出版社 | 河合出版 | |||||||||||
出版年 | 2016/6/1 | |||||||||||
著者 | 竹國 友康、前中 昭、牧野 剛 | |||||||||||
目的 | 現代文読解 | |||||||||||
分量 | 342ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・最難関大志望、かつ全統模試偏差値65以上
・硬い文章に全く抵抗がない人、文章を読み慣れている人
【到達】
・入試現代文を一段高いところから読めるようになる
・抽象的で論理的な思考が養われる
本書は2016年に河合出版から出版された現代文読解のための参考書です。以前に取り上げた『現代文 読解の基礎講義』に近く、難関大志望向けの硬い文章になっています。レイアウトも見やすいとは言えず、濃密な内容が342ページにわたっていますから並の受験生は手を出さない方が無難です。
東大や早慶の文系志望なら本書に適応できるだけの国語力を要求したくなりますが、本書は実力を伸ばすというより、すでにある程度高いレベルにある人の足固めとして考えた方がより良いと思います。「難関大の現代文で点数は獲れているけれど、安定していない気がする」という不安を払拭するためのもの。そうした人が本書を読み終えたときには入試現代文で怖いものがなくなります。
他方で、必ずしも問題を解くことと文章を読解することは等しくありません。英文解釈と同じ。実際の入試では「深いところはわからないけれど、なんとなくこう言っている」という感覚で問題ないと言えることもあります。これはいい加減と言えばいい加減かもしれませんが、文章の意味と論理の輪郭を得点に必要な水準まで捉えていれば良いということ。その点で本書はどれほど難解な文章であろうとも真正面から読解する、タイトルの通り「格闘すること」を目的にした参考書なので、一般的な受験生には見慣れない大人の視座に負担を伴います。
本書の構成
第一部 ことばをイメージする
I.字義上の関連語 II.論理を示す重要語 III.近代をめぐる諸概念 IV.対概念 V.ダイナミズム(動的な見方)
第二部 文章を読みつなぐ
第1章「キーセンテンスと論理で読みつなぐ(評論文の読解)」評論文を読むということ、評論文をどう読めばよいか、実際に問題文と取り組む、全体をつかむことに向かって読みつなぐ、問題をどう解けばよいか
第2章「出来事と心情・想念で読みつなぐ(小説文の読解)」小説文を読むということ、小説文をどう読めばよいか、実際に問題文と取り組む、場面における出来事と心情・想念を読みつなぐ、問題をどう解けばよいか
第三部 文章と格闘する「演習編」「解説編」
第一部は『現代文キーワード読解』に近い内容が書かれています。第二部は章の冒頭に評論と小説の読解の概説があり、その後は例題と解説による具体的な方法の提示です。第三部では本書に付属する演習題13問をもとに、第二部までに学んだ内容を活用した実践的な内容を記しています。
個人的に印象に残った部分をひとつ挙げると、第一部の「I.字義上の関連語」の解説です。
日本語の熟語は、多くの場合、複数の漢字の組み合わせである。漢字の多くは表意文字であるので、熟語をつくる一つ一つの漢字の意味やイメージを深く理解することによって、一連の熟語の意味やイメージを理解できる場合がある。
現代文と格闘する P10より引用
漢字を勉強したとしても、大抵は読み書きができる程度で頭に馴染んでいないものの方が多くあります。理解はできていない状態。この状態では見慣れない熟語を含む難解な文章もなかなか理解できません。こういうときにどうしたら良いのかというと、熟語の構成から意味の推測やイメージを膨らませられるようにすることです。
以前に『語彙力をつける 入試漢字2600』という熟語の解説に特化した漢字問題集を取り上げました。この解説にあるような捉え方ができると、現代文の文章だけではなく、他の科目の見慣れない専門用語も自然と定着するようになります。必ず意味を持って構成される熟語ですから、その熟語がその熟語である理由に納得できる、すなわち有機的な意味の形成に役に立ち、延いては文章の意味を理解するにも大いに役に立つということです。
第一部には、そうした文章読解のために必要な考え方と知識が詰まっています。しかもそれは一般的な参考書にある解説から一歩踏み込んだ本格的な内容です。難関大志望向けに書かれてあるからというより、現代文指導の長年の経験から成る老練な文章という印象。
次に、本書が必ずしも一般的な受験生に必要ない点にも触れておきます。
部分から全体へ
評論文を読むときは、小説文でもそうだが、何について書かれているのだろうかと、まず冒頭の第一文を読み、それに続く第二文を読み、さらにその先を読んでいくなかで、だいたいこんなことが話題の中心になっているようだと少しずつ理解が進んでいく。
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つまり、文章を「読みつなぐ」ということを、何となくであれ、行っているはずだ。そして、同じように段落と段落との関係を考え、それらを読みつないでいき、文章全体のおおよその趣旨をつかんでいく。このように見てくれば、「文章を読む」とは、いわば部分を読みつなぎ、その全体像をつかむ作業のことであるとわかるだろう。
現代文と格闘する三訂版 P29より引用
私たちは日本語を話すときに文法をほとんど意識していません。同様に、文章を読むときも文と文、段落と段落の関係性についても無意識に捉えて理解しています。本書に書かれてある内容というのは、そうした無意識に行っているものを一度言語化し、そこから意識的な読解を試み、最終的に無意識の正確な読解を目指すものです。しかし、これは私たちにとって迂遠な行為であり、必要以上に難解な作業にも感じてしまうと思います。
そもそも現代文の読解は、第一に文章の解像度を上げることが大切です。解像度を上げるには文法と語彙。文法は中学国文法を押さえているなら、語彙は常用漢字と読解で必要となる語彙を覚えているなら問題ありません。その上で、現代文の文章を精読し、解説に触れながら自分自身の読解力を点検します(必要に応じて背景知識も補充する)。入試現代文の文章は短すぎる欠点があるので、(点検しにくいですが)一般書籍もありです。この作業が基本になります。文章を読めない原因は曖昧な語彙、文法から始まっていると言い換えても良い。
つまり、読むために必要な基礎知識をもとに「文章を読む(というより理解する)」という実践を通じた理解があって初めて培われていくものであり、文章の読み方を習えば読めるようになるわけではありません。座学だけで一流スポーツ選手になろうとするようなもので本質的ではないのです。したがって、本書のレベルにない人が手を出してしまうと、単なるテクニック本に化け、文章を読むことを誤解します。逆に本書の例題と演習題をある程度読解できる人にとっては、痒い所に手が届く感覚、無意識を言語化してくれる参考書として高い評価を与えるでしょう。
