数学 基礎問題精講[六訂版]―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル基礎問題精講[六訂版] 数学IA 数学IIB
出版社旺文社
出版年2022年~
著者上園 信武、齋藤 正樹
目的高校数学の入試基礎対策
分量数学IA(296ページ)、数学IIB(360ページ)
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・高校数学の入試基礎レベルの対策をしたい人
・教科書レベルを終えた人
・チャート式よりも少ない問題数を探している人
・準難関国公立、私立志望まで

【到達】
・入試基礎の重要問題を一通り押さえられる
・全統模試偏差値55~60

 本書は入門問題精講に続く『基礎問題精講』です。シリーズとしては本書が先に出版され、あとに入門が続きました。今よりも参考書の選択肢が少ない時代において、チャート式と二分するほどの人気を博して現在でも根強く支持されています。問題精講シリーズは「入門」と「基礎」は著者が揃っているので使いやすく、特に数学対策にそこまで時間をかけられない、かけたくない文系志望にとっては有力な選択肢です。

 そして、本書も入門問題精講と同様に、2024年に新しい学習指導要領に対応した「数学IIIC」が発売されたので改めて取り上げることにしました。新しい章の追加とページ数の増加も入門問題精講と同じ。昔よりも入試基礎レベルの選択肢が増えていることもあり、本書が最適な選択肢になるのか気になる人もいると思います。

 結論から述べると、入門問題精講は充実した解説が教科書の代替としても機能する優れた参考書と言えますが、本書は解法暗記寄りなので他に優先したい参考書があります。数学の問題精講シリーズは『入門問題精講』が頭一つ抜けて優秀です。だからと言って決して悪い参考書ではなく、志望校の偏差値60程度までなら誰でも参考書ルートに組み込める質になっています。

重要事項完全習得編と入試数学の基礎徹底、白黄チャートとの比較

 入試基礎レベルの参考書で有力な候補は『重要事項完全習得編』と『入試数学の基礎徹底』、『1対1対応の演習』『チャート式』あたりだと思います。教科書~入試基礎まではできるだけ多くの問題数を確保して反射的に問題が解けるまで訓練したいのですが、現在の実力や志望する大学に応じて必要な問題数は変わります。

【問題数】右ほど多い
入試数学の基礎徹底<基礎問題精講≒重要事項完全習得編<1対1対応の演習<チャート式
【解説の丁寧さ】右ほど丁寧
入試数学の基礎徹底<1対1対応の演習<チャート式≒基礎問題精講<重要事項完全習得編
【レイアウトの見やすさ】右ほど見やすい
入試数学の基礎徹底<1対1対応の演習<基礎問題精講<重要事項完全習得編≒チャート式
【問題の難易度】右ほど難しい
白チャート≒入試数学の基礎徹底<基礎問題精講≒重要事項完全習得編<1対1対応の演習≒黄チャート

 まず、本書と白黄チャートとの比較で言うと、問題数は圧倒的にチャート式の方が多く、問題の難易度は白<本書<黄です。本書と白チャートの難易度は重複する部分が多いのですが、本書は入試基礎を中心に扱っているのでやや上と考えられます。黄チャートは本書と同様に入試基礎を中心に扱っていますが、入試標準まで満遍なく扱っている黄チャートの方が上です。偏差値で言うと、白チャート40~55、基礎問題精講50~55、黄チャート50~60あたりになります。チャート式の利点は圧倒的な問題数によって解きながら基礎事項を習得できるところにあります。

チャート式は圧倒的な問題数によって教科書と入試基礎まで問題を解きながら網羅できる上に、模試や過去問、入試標準に取り組む際には辞書利用できる利点も大きい。基礎問題精講と重要事項完全習得編はどちらも重要テーマを効率良く身につけたいなら非常にオススメですが、定着のための周回は必須、問題と解法をパターン化するための分類思考も必要になります。

 次に、重要事項完全習得編との比較で言うと、難易度はやや重要事項完全習得編の方が難しい印象。数学IIICは特にそう感じます。これは「例題+演習題」の演習題(実際の過去問)が難易度を引き上げているからです。例題のみを比べたらほとんど同じ。文系の数学と冠していることもあり、本書とターゲットが近く最も競合しています。個人的に本書と重要事項完全習得編はシリーズを加味せずに評価すると、重要事項完全習得編が好みかもしれません。

 そして、東京出版から出版されている『入試数学の基礎徹底』と『1対1対応の演習』はレイアウトの問題さえクリアされているならば、精選された良問と確かな解説に効率は良いと思います。ただ、東京出版は数学が得意な人向け、高校偏差値65以上に適していると個人的には考えているため、本書と『入試数学の基礎徹底』の比較では万人受けしやすい本書を推奨します。『1対1対応の演習』は問題数が非常に多く、高校偏差値65以上の難関大志望に推奨したい参考書です(演習題は無理して取り組まなくても可)。

本書を推奨できるターゲットの要素は「文系志望、高校偏差値65未満、準難関国公立・私立志望」です。文系なら東大・京大・一橋などの最難関大を想定しても参考書ルートに採用できなくもありませんが、本書のみで十分とは言えない可能性をよく考えておく必要があります。本書のみで考えるなら、地方~中堅国公立やMARCHあたりまでがベストだと思います。

参考書の網羅性と効率

 教科書から入試基礎レベルまでは問題数の多い『チャート式』や『1対1対応の演習』などを個人的には推奨したいのですが、これは問題数の多さが問題を見た瞬間に解けるようにする訓練として効果があるのと、実際に全ての問題は解かずとも辞書利用できる利点が大きいからです。数学は特にわからない問題と出会ったときに、手元にある参考書を参照して疑問を解決できるかどうかが差になります。

 では、本書のようなチャート式ほど分厚くなく、重要テーマを効率良く身につけるタイプの参考書はどのような場面で活用できるのか。これはどれほど時間を割けるか、過去問の疑問点を解消できるか、解法習得に必要な問題が備わっているかによって判断したいところです。チャート式は一つの解法を複数の似た問題で固めるので、もうすでにわかっていると“くどさ”を感じます。柔軟に部分利用できないと、時間を無駄にしやすい。

 その点で本書は全てが重要と言えるので無駄がありません。最初に重要テーマを手早く押さえて、過去問などの実戦で力を伸ばしたいなら効率的な選択肢になっています。ただし、網羅されていない可能性があること、少し捻った問題でも習得した解法に正しく分類する力が必要になります。チャート式ならほとんどそのまま問題と解法を当てはめられますが、本書は考えることできちんと埋めなければならない場面があります。

勉強に不慣れな人ほど薄い参考書をしっかり終わらせることの価値は大きくなります。正しく実力に変えられた経験が次に繋がるからです。「入試標準レベルまではパターン化するだけ」という直観が働いている人はチャート式がオススメですが、まだ入試数学のコツを掴めていない人は本書がオススメかもしれません。個人的な好みを言えば、入試基礎までは教科書+白チャート、あるいは入門問題精講+黄チャートです。

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