タイトル | 読解 評論文キーワード[改訂版] | |||||||||||
出版社 | 筑摩書房 | |||||||||||
出版年 | 2020/10/9 | |||||||||||
著者 | 352ページ | |||||||||||
目的 | 高校現代文の重要キーワード対策 | |||||||||||
分量 | 352ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・高校現代文の頻出テーマと用語を押さえたい人
・全統模試偏差値55以上(できたら60以上)の難関大志望
・大人の学び直し、硬い文章を好む人
【到達】
・高校現代文キーワードを押さえられる
・抽象的な文章への対応力が上がる
・現代で論じられている事柄への理解と歴史感覚が深まる
本書は2020年に筑摩書房から出版された現代文キーワード対策の参考書です。この手の入試現代文頻出のテーマをまとめた参考書は古くは『ことばはちからダ!』が有名で、その後に『Z会現代文キーワード読解』が現代的なレイアウトと内容の充実によって覇権を握りました。おそらくここ10年くらいはZ会のそれか、次いで桐原書店の『読解を深める現代文単語』をほとんどの受験生が用いていたと思います。今では各出版社から同様の参考書が出版され、どれも甲乙つけがたい、本音を言えばどれもあまり変わらないようなものばかりになっています。
現代文頻出のテーマとキーワードは10年経っても大きく変わらないとは言え、近年はSNSを中心に論じられるテーマとキーワードが日に日に増えており、特に流行に敏感であろう難関私大ではそうしたテーマやキーワードが盛り込まれる可能性も高くなっています。Z会は2015年に改訂版が出版されて以降は音沙汰なく、桐原書店が2024年に三訂版を出版したために現役生の支持を集めるのは桐原書店に変わりそうです。
では、なぜ2020年出版の本書を取り上げたのかと言うと、筑摩書房は大人の学び直し向きの硬いテーマ(哲学、思想、科学、文化など)に定評があり、高校現代文対策としても『ちくま評論入門 二訂版』や『ちくま小説入門 改訂版』、『ちくま評論文の論点21』、さらには有名な『着眼と考え方 現代文解釈の基礎』も出版されていたりと高校現代文にかなり力を入れているからです。正直レイアウトはあまりパッとしませんが、テーマやキーワード解説で引用されている文章は知的好奇心を刺激するものが多く、その関連性の確からしさは、数学で言うところの1対1対応の演習で有名な「東京出版」のような安心感があります。
本書の構成
第1章 基本語
第2章 哲学・思想
第3章 言語・文化
第4章 科学論
第5章 法・政治・経済
第6章 近代
第7章 現代
付録 小説の語句 頻出120選
読解演習54題
第1章の基本語では、現代文で頻繁に用いられる「具体・抽象」や「絶対・相対」「帰納・演繹」などが解説されています。これらは私たちの日常会話でも用いられるため、大学入試とは関係なく、誰であっても学んでおきたいものです。第2章の哲学・思想では、「主観・客観、独我論、間主観性、間身体性、止揚、唯心論・唯物論、実存主義、構造主義」などが解説されています。第3章の言語・文化では、「記号、(言語の)恣意性、文化・文明、西欧中心主義・自文化中心主義・文化相対主義・多文化主義、エスニシティ、クレオール、アニミズム」などが解説されています。
第4章の科学論では、「仮説、検証、反証、分析、総合、対象化、因果関係、機械論的自然観、要素還元主義、科学主義、反科学、疑似科学、生命倫理、環境倫理」などが解説されています。第5章の法・政治・経済では、「自然法、実定法、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、社会保障、再分配、セーフティネット、功利主義、公衆衛生、トリアージ」などが解説されています。第6章の近代では、「近代合理主義、世俗化、宗教改革、啓蒙主義、ロマン主義、個人、自我、アイデンティティ」などが解説されています。第7章の現代では、「ポストモダン、大きな物語、脱構築、フェミニズム、ジェンダー、構築主義、ビッグデータ、AIプロファイリング、パターナリズム、ポストヒューマン」などが解説されています。
そして、各章にはテーマに応じた文章問題が読解演習(大学の過去問)として組み込まれているため、テーマとキーワードを押さえながら読解力の向上を意識できるようにもなっています。この読解演習54題は類書の中でも群を抜いて多い。他方で図解は少なく、テキスト中心で構成されています。この硬派な印象が大人向けと考える根拠。
大人の教養に最適
以前に取り上げた『小論文の完全ネタ本』で述べたように、現代文を読み解くにはそれに必要なキーワードと背景を知っておく必要があります。『小論文の完全ネタ本』は公共の用語集に近く、分野別、かつ最新の流行を押さえていますが、本書はその意味では古典的なテーマと用語を押さえた参考書です。
本書のようなテーマと用語は抽象度が高く、大学受験以来触れていなかったり、そもそも苦手で避けていたりする人もいると思います。しかし、人間や物事について考えを深めていくには、他人の深い洞察に触れ、時には抽象度の高い思考に触れる必要があります。神経が通わないと言いますか、人間は体験していないことに対しては深くなれません。深くなれないということは常に表面的な判断をし続けることになり、それはいわゆる通俗的な大人、教養を感じさせる大人のイメージからは離れてしまうでしょう。※通俗的であることが悪いのではなく、通俗的と深い思考には相反する面があるということ。
つまり、本書のようなどこか小難しいテーマとそれに必要な用語知識に触れることで、今まで見えていなかった深い思考の世界が見えるようになるわけです。人間の思考=語彙力と語られることがあるように、言葉をより多く知っていることは思考力の向上に結びつきます。読めているようで読めていなかった、見えているようで見えていなかった、理解できているようで理解できていなかった。こうした感覚を抱いたことがあるなら、本書を手に取り、一通りのテーマと用語、それらの背景に触れてみるのがオススメです。