編入数学入門 講義と演習―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル編入数学入門: 講義と演習
出版社金子書房
出版年・価格2021/4/13 3080円
著者桜井基晴
目的・分類大学数学の準備(高校数学)
問題・ページ数282ページ
総合評価
対象・到達レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・大学編入試験のために高校数学の復習をしたい人
・大学数学を学びたい大人の高校数学復習

【到達】
・大学編入試験に必要な高校数学を押さえられる

 本書は大学編入試験に必要な高校数学の内容をまとめた参考書です。大学編入試験とは、高専生や大学2年生が他大学の3年次に入学するための試験のこと。この試験は高校生向けの大学入試とは異なり、大学1、2年生で学ぶ基礎教養を含んだ試験です。理系は数学が必須のため、特に文系学部から他大学の理系学部に編入する際には本書のような高校数学の範囲から押さえておかなければなりません。つまり、本書は大学1、2年生で学ぶ数学のための高校数学をまとめた参考書とも言えます。

 本書から(必要に応じて)『編入の数学 微分積分』や『編入の数学 線形代数』に繋ぎ、『編入数学徹底研究』と『編入数学過去問特訓』で対策するのが王道のようになっています。これは編入試験対策のできる参考書が限られているため、選択肢がほとんどないと言って良い状況だからです。しかし、選択肢がないながらも本書は編入試験に備える多数の受験生から支持される良書になっています。

本書の構成

第1章 数列の和
第2章 無限級数
第3章 漸化式
第4章 数学的帰納法
第5章 三角関数
第6章 指数関数・対数関数
第7章 微分法の計算
第8章 微分法の応用
第9章 積分法の計算
第10章 積分法の応用
第11章 平面ベクトル
第12章 空間ベクトル
第13章 複素数と方程式
第14章 複素数平面
第15章 空間図形の方程式
第16章 いろいろな曲線
第17章 行列
第18章 1次変換
第19章 場合の数
第20章 確率
第21章 確率分布
第22章 統計

<ワンポイント解説>三角関数に関する極限の公式、定積分と面積、組立除法、空間ベクトルの体積、固有値・固有ベクトル

<集中ゼミ>2次関数の最大・最小、2次方程式の解の配置、領域と最大・最小(逆像法)、必要条件・十分条件、背理法、整数の余りによる分類

<発展研究>ε-δ論法、写像および対応

 全体的なレベルは白チャート(教科書基礎~標準)とあまり変わりません。レイアウトも似ています。本書だけで数学IIICまで含んでいますから問題数は少なく、大学数学に必要な高校数学の重要な論点をさらっと復習するものに過ぎません。ただ、明確に大学数学(を含む編入試験)を意識した構成・解説にはなっているため、編入試験に備える人以外に受験勉強を終えた高校生、大学数学を学びたい大人にも使い勝手が良いと言えるでしょう。

 その例として(現在の高校数学では疎かになりやすい)「行列」を含み、「ε-δ論法」の解説も僅かながらあります。なお、本書は「聖文新社」から「金子書房」に出版社の変更がありますが、内容に変更はありません。※一応、行列は数学Cにて部分的に復活しています

大学数学に備えた論点の整理として有用ですが、チャート式などで受験勉強を終えた高校生にはほとんど必要ありません。強いて挙げるなら「行列」に目を通す程度になると思います。

数検1級の準備として

 数検1級は準1級に合格できるレベルにあることが前提となります。本書だけで数検準1級に合格できるかというと、問題数からして網羅性が心許ないために難しいと思います。「準1級=青チャート」という認識。

 しかし、大学数学を含む数検1級を独学する場合、大学数学への橋渡しになる、できたら大学数学の基礎教養課程まで網羅する参考書が必要になります。数検1級は出題範囲こそ明示されているものの、範囲が広すぎる上に取り組むべき問題の難易度も定めにくく、公式のテキストも充実しているとは言えず、現役の数学科大学生や大学院生が持ち前の数学力でどうにかする試験になっていると言っても過言ではありません。あるいは数検1級に役に立ちそうな参考書をかき集めて挑むか。

 そこで本書のシリーズです。確かに本書は数検準1級レベルの高校数学を網羅しているとは言えませんが、続く『編入の数学 微分積分』と『編入の数学 線形代数』で数検1級に必要な大学数学の教科書レベルを一通り網羅できます。これが大きな利点です。編入試験の数学は大学1、2年生を出題範囲としていることから、本書のコンセプトと数検1級が偶然にも一致していたということ。数検1級は問題の難易度自体はそこまで高くないため、『編入数学徹底研究』まで加えると合格に必要な論点と計算力はつくと思われます。※理系大学生にとっても大学1、2年生の範囲を先取りや網羅できる利点はあるでしょう。

大人の学び直しとして、大学1、2年生の数学(統計・微積分・線形代数)の需要は高いと思います。そんな大学数学を学べる参考書は他に「マセマシリーズ」や「1冊でマスターシリーズ」、「手を動かしてまなぶシリーズ」、「チャート式大学教養」あたりが初心者にはオススメですが、大学数学の参考書は誤植が多いため、正誤表のチェックは必須です。その点で本書のシリーズは誤植がほとんどないという隠れた利点もあります。

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