タイトル | 音読の教科書 | |||||||||||
出版社 | テイエス企画 | |||||||||||
出版年 | 2025/2/17 | |||||||||||
著者 | 靜 哲人 | |||||||||||
目的 | 英語の音読 | |||||||||||
分量 | 340ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・英語の音読を詳しく学んでネイティブの感覚を理解したい人
・自己流の音読を矯正したい人
・英語初級者以上(初心者でも悪くない)
【到達】
・英文を読むことの理解度、および音読による学習効果の向上
本書は2025年に出版された「英語の音読」を学ぶための参考書です。英語の発音に関わる参考書は「発音・アクセント」が圧倒的に多く、情報としても大学受験向けの単語帳やリスニング教材に含まれるもので事足りてしまうためか、本書のように音読をメインに扱った一般向けの参考書は珍しいと言えます。当サイトで取り上げた「英語の発音パーフェクト学習事典」も稀少でした。
では、音読はそれほど重要でないのかというと、そんなことは全くありません。大学受験にしても大人の学び直しにしても、音読の質は英語の学習効率を決定づけるほど重要な要素です。例えば、英文を読む際にどこで区切るのか。音読をする際には必ず相手に伝わりやすいように文を区切ります。どこでも自由に区切れるわけではなく、英語なら英語の性質に則った観点があり、それが等しく英語話者が理解しやすい認識の幅となっています。これは日本語で想像してみるとわかりやすいと思います。例えば「今日は/友達と/遊園地に/行った」と文節に区切る無意識の共有感覚がありますが、もしこれが感覚に逆らうような区切り方になってしまったら戸惑うのもわかるでしょう。
しかし、なぜだかこうした情報が参考書の中では補足されることもほとんどありません。意味のカタマリとしての認識が不適切なままではスピーキングはもとより、リスニングでも当然足を引っ張られることになります。例文暗記の効率も落ち、ネイティブの感覚に即した体系化もされずにすぐ忘れてしまいます。言語の必然性が欠けていたら定着は難しい。そこで本書のような音読の参考書が非常に勉強になります。
本書の構成
序章 あなたの英語力は音読に表れる―音読でわかる5つの能力
Point 1.文法力が、だいたいわかる Point 2.実は読解力も結構わかる Point 3.語彙サイズが、だいたいわかる Point 4.フォニックスの感覚(=英単語への慣れ)が、だいたいわかる Point 5.発音力はもちろん、リスニング力も推測できる
第1章 音読のための基礎トレーニング
第2章 対話文の音読
第3章 スピーチの音読
第4章 物語の音読
第5章 テストと音読
Column 音声用語解説「鼻腔開放とは」「側面開放とは」「帯気音とは」「たたき音とは」「鼻濁音とは」
※音声ダウンロード付き
まず率直な感想から述べると、想像していたよりも遥かに購入して良かったと思える参考書でした。経験上、この手の参考書は内容があるようでなかったり、眉唾物で読後感が芳しくないものだったり、専門性が高すぎて応用が難しかったり、大学受験向け参考書に比べると当たりはずれが極端に出てしまう印象です。そうした中で本書は英語初級者でも取り組める(初心者でもなんとかなる)程度によくまとめられています。
ページ数あたりの情報量が多すぎない。場面に応じた例文と解説(例文を順を追って押さえる)が思考プロセスに馴染みやすい。適宜カタカナ表記を用いて取っつきやすい。発音の基礎情報にも触れられている。強勢/弱勢、抑揚、強弱がレイアウトの工夫によって視覚的に理解しやすくなっている。英検やTOEIC(S&W)、TOEFLなどのテストを例文にした解説もある。付属音声も使いやすい。
学びやすい参考書のお手本のようでした。これなら本書のシリーズにある『単語の教科書』『リスニングの教科書』『発音の教科書』の購入も視野に入ります。どれか一冊なら、本書がオススメ。これは冒頭で述べたように音読を中心に取り扱っているものが少ないためです。
音読で把握できる情報
以前に「音読」には総合的な英語力が表現されると述べましたが、本書にも触れられてあります。以下の引用はその一例です。
Trying to produce Language in front of other students can generate high levels of anxiety.
音読の教科書 P22より引用
英文解釈の最初に出てきそうな文ですね。音読によってどこまでを主部として認識できているかどうかが明らかになります(文構造の把握)。主部は「Trying to ~ students」までです。ここまでを繋げて読む、あるいはLanguageのあとにわずかに区切りを入れても可。文の区切りがわからない=文構造を把握できていない→英文解釈の力が足りていないと判断されてしまうのです。
<文脈1>
Aさん:I have a dog.
Bさん:Really? I have a dog, too.
<文脈2>
Cさん:I have a cat.
Dさん:Really! Cats are easy to keep, aren’t they? You don’t have to walk them.
Cさん:Actually, I have a dog, too.
音読の教科書 P28より引用
強調部分が太字。<文脈1>では、Bさんも同じく犬を飼っている情報を伝えるために「I」と「too」が強調されています。<文脈2>では、猫だけでなく犬も飼っているという新情報を伝えるために「dog」と「too」が強調されています。このように英語では相手に伝えたい、伝えるべき重要な情報は強調して発声されます。すなわち文章(会話)の重要な部分を把握しているかどうかがすぐにバレてしまうわけです。
ただし、強調と言っても日本語のベクトルとは異なります。日本語はフラットに並べられた音がベースにあり、語順の変更や助詞によって表現されるのに対して、英語は常に音の強弱が明確で跳ねるようなリズムによって表現されます。つまり、日本語の感覚しか知らない人にとっては、英語特有の強調のグラデーションとも言うべき言語情報の処理感覚が理解できず、日本語と同様にフラットな捉え方に終始するか、大雑把に音の大小で区別するしかなくなってしまうのです。発声の練習に取り組んだことがある人ならわかると思いますが、日本語に比べると英語は口や舌を大胆に扱うところがありますよね。
英語の発音パーフェクト事典との比較
結論から言うと、本書がオススメです。『英語発音パーフェクト事典』では発音記号を明確に扱っていること、リズムを学習する例文が子供向け教材であること、例文のテーマが異なるなどが本書との違いになりますが、英文を読む際のリンキングや消失、強勢/弱勢などを取り扱っている点は共通しています。理屈で理解しやすい点も同じです。
本書には発声方法の図解こそあるものの、単音(発音記号)の理解には重きが置かれていません。※おそらくこれは『発音の教科書』にあります。単音(発音記号)に関しては今でも『英語耳』が軽快で使いやすく、なくとも単語帳付属の発音記号情報だけでもダメとは言えないことを考えると、比較の焦点は「音読に関わる情報」です。情報量という意味では同じくらい。わかりやすさという意味では、本書が頭一つ抜けています。
やはり対話文、スピーチ、物語、テストとテーマごとの例文を提示したあとに、例文の最初から一文ずつ解説(付属音声)を添えていく構成は思考プロセスに沿っていてわかりやすいです。文章から一文だけ取り出して復習することも簡単。解説も下手に易しいわけではなく、正しい情報を上手に噛み砕いて伝えている点が秀逸です。しかも本書の例文だけで一通りのパターンが網羅できますから、何度も繰り返すだけで音読で困る場面がなくなります。全体的に余計な情報を足していない点も評価を高めています。