真・解法への道[第2版]―誰でも難問の壁を乗り越えられる期待の一冊

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タイトル真・解法への道[第2版]
出版社東京出版
出版年2024/8/26 2640円
著者箕輪 浩嗣
目的難関大志望のための難問対策
ページ数608ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・主に理系なら旧帝大志望、文系なら東大京大一橋早慶志望
・入試標準レベルを終えた人
・数学が得意というほどではない難関大志望
※準難関国公立(筑波・横国・神戸など)は理系であっても入試標準が中心なので必要ないと思われます。

【到達】
・難問対策に必要な視点と考え方が身につく
・典型的な難問を押さえられる

 本書は入試標準レベルを超える難問対策の参考書になります。入試標準レベルまでは『青チャート』や『新数学スタンダード演習』などで網羅的に典型問題を押さえることが可能ですが、それを超えるレベルになると大きな壁があり、よほど数学的センスに恵まれている人でない限りは太刀打ちできないのです。しかも入試標準の典型問題までを網羅する方針を立てる一般的な受験生の場合、どうしても予備校や学習塾の指導にアドバンテージがあり、参考書による独学が難しい領域でもあります。

 本書はそうした難問について類書に見られないほど懇切丁寧に解説し、難問の中でも典型的、かつ応用できる問題と価値ある考え方を提示してくれています。数学を解法暗記で乗り切ろうとする受験生を、難問に向き合えるように引き上げてくれるのが本書です。なお、大人の学び直しにも向いています。入試標準レベルまでをしっかり終えたあと受験数学の難問に関心を抱いたのなら、本書の講義調はわかりやすく頭に入ると思います。

真・解法への道[数学IIIC]は少ないながら誤植が報告され続けているため、最新刷を購入した方が無難です(正誤表)。本書[数学IAIIBC]は第2版になって誤植が解決されました。数学・物理・化学は誤植が比較的報告されやすいので、どんな参考書であっても必ず公式サイトの正誤表(訂正表)はチェックしましょう。

独学の強い味方

 もともと数学は独学しにくい科目でしたが、近年はyoutubeなどで無料の講義動画が流通し、数学が苦手な人にも取り組みやすい『入門問題精講』などの参考書も増えてきました。一昔前に比べたら優れた選択肢が当たり前のようにあります。しかし、難問に関しては依然として数が少なく、あっても数学が得意な人でないとなかなか実力に寄与しないものが多い印象です。

 また、基本的に数学の難問対策というのはコスパが悪く、受験戦略としては入試標準レベルまでを完璧にした方がより良い事情もあります。はっきりと難問完答によって合否を分ける大学・学部は指で数えられる程度しかありませんからね。ただ、合否を分けるほどではないにしても、入試標準レベルを超える問題が出題される大学(旧帝大や早慶)の場合、全く難問対策せずに受験するリスクは無視できません。

本書と『入試数学の掌握』はユニークな講義調で難問に対する考え方を学べる点は似ていますが、対象となる層が異なります。本書の対象はあくまで普通の受験生。あえて言うなら全国有数の進学校でもなければ、有名予備校や塾に通っているわけでもない地方進学校の生徒。それに対して『入試数学の掌握』は東大理IIIや京医志望に向けた難問(過去問)を中心に取り扱っているため、全国有数の進学校を中心にしたトップ層向けです。

 難問は解法暗記的に解くのではなく、どうしても試行錯誤が必要です。解法暗記的な解き方は問題の意図を把握し、解法を適用するまでにほとんど思考が介入しません。もはやパターン認識です。一方、難問は複数の基礎的な知識を組み合わせたり、数学的な論証の考え方を身につけたりと1対1対応の解法暗記とは根本的に異なる考え方が要求されています。これはある意味でとても数学らしい頭の使い方なのですが、解法暗記という応用力を無に帰す方法に染まってしまうと全く発想できなくなります。そこで本書の応用力を身につけやすい良問と講義を通じて、解法暗記からの脱却を伴走しながら目指すのです。比較的丁寧な解説を備える『上級問題精講』のようなものとは違い、伴走と言い表したように普通の受験生が陥るであろう悩みを随所で的確に押さえながら進みます。難問の入門問題精講のようなイメージが本書です。※解法暗記は難問を解くための下地にはなります。

反論を覚悟して言いますが、私は、このような同値性が明らかな問題では、十分性の確認をするべきではないと考えています。同値性を把握していないことを自ら告白するようなものだからです。受験生から「いつ十分性の確認をすべきなのかが分からない」という質問を受けることがあります。これはその受験生の理解が足りないのではありません。「不必要な十分性の確認」をした大人の解答が世間にあふれているせいです。厄介なことに、それは検定教科書の中にも存在します。最も典型的なものが――
真解法への道 数学IAIIBC(ベクトル) P50より引用

 このような解説は実際に似た悩みを抱える受験生に刺さると思います。英語で言うと、思考プロセスを学べる解釈系の参考書。難問を目の前に一から思考を展開・解説してくれるので、入試標準レベルにある普通の受験生を発展レベルまで引き上げてくれるというのはそういうことです。こうした解説がどうにも肌に合わない場合を除き、現状の難問対策の“はじめ”として採用する参考書の筆頭は本書です。

以前までは数学の本質を学べる横割り本を難問対策前に読み込むことを推奨していましたが、本書の登場によって本書から取り組んでも問題は小さくなりました。もちろん、『公式で深める数学IAIIB』など高校数学の理解を深めておくに越したことはありません。

AI時代にも生き残る参考書

 今は生成AIが急速に浸透しつつあるため、誰でもわからないところはAIに質問したら解決できるようになってきています。少なくとも解決の糸口は提示してもらえる。これは大学受験における数学の難問であってもです。しかし、本書のように、日本の大学受験を熟知する専門家によるアドバイスはまだAIによって完全に代替できません。特に数学は科目の特性上、(難問ほど)抽象度が高いために言語化が難しく、まだまだ人間らしい解説と工夫が活きる分野です。※AIによる過去問分析などやりようはあるため、優秀な人ならAIだけで全く問題ない時代ではあります。

 数学に秀でた人を除き、おそらく普通の受験生が難問に取り組むには客観的・論理的なAIによる解説のみでは足りません。普通の受験生が抱える悩みや疑問点を的確に押さえた解説が必要になります。本書の講義調は多少癖がありますが、むしろこうした人間味のある解説の方が普通の受験生にとってはありがたいと思います。それに難問を解くというのは、英語で言うところの『ポレポレ』や『英文解釈Code70』のように思考プロセスを真似ていく方針が有力です。頭の良い人はどこに着目して、何を考え、どういうアプローチを選んで解いていくのか。それを間近で感じられる本書の優位性は数学の難問対策書の中では随一です。

 そして、本書にしっかりと取り組めたあとはもうAIとの対話による理解で十分となっていくのではないかと思います。難問に対しての考え方が一通り身につけば、何を質問したら良いのかもわかるからです。この意味でも本書のコンセプトと利点は計り知れません。数学の難問対策をする人はかなり少数ですが、現役生だけではなく、大人の学び直しで受験数学の難問に取り組みたくなったという人にも非常にオススメの参考書です。もし本書の解説が合わなかったという人は『ハイレベル数学の完全攻略』をオススメします。

AI時代に生き残る参考書について考えることが増えています。基礎用語の定着や典型問題を押さえる問題集、難問対策あたりは価値が残り続けていく気がしますが、入門書のようなわかりやすく解説するものは軒並みAIによって代替されるかもしれません。そもそも教科書がどの科目も優秀なので、教科書を軸にする受験勉強が流行する予想です。教科書から傍用問題集に繋ぎ、教科書からどのような問題が作成されるかをイメージしつつ、知識と解法の定着を促していく勉強がシンプルでわかりやすいでしょう。これならお金もかかりませんからね。

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