文系の数学 重要事項完全習得編 改訂版—重要事項を着実に押さえる良書

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タイトル文系の数学 重要事項完全習得編 改訂版
出版社河合出版
出版年2024/06/20
著者堀尾 豊孝
目的入試基礎固め
対象現役生から大人の学び直しまで
分量例題158問・演習題115問 288ページ
評価
AI類似問題の生成
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
加筆修正の履歴

2025/11/01 改訂版の内容を踏まえた上での評価、類書との比較など全体的に加筆修正を行いました。

厳選した問題数による現実的な基礎固め

 本書は2013年に出版された『文系の数学 重要事項完全習得編』の2024年改訂版になります。チャート式のような網羅系参考書は定着率が悪く、挫折率も高いという評価を受けるようになってから、問題数を少なくした基礎問題精講が注目を集め、さらに洗練された解説と厳選された問題数で基礎固めできる本書が支持されるようになっていったと記憶しています。それらとの比較は後述しますが、入試数学の基礎固めの方針は大きく分けて3つある中の本書は1つになっています。率直に素晴らしい参考書です。

 本書の何が優れているのか。まず、文系の数学と冠しているように全体的に問題の難易度に無理がなく、本当に入試基礎で必要となる問題と知識が収録されている点です。授業を受けていたら誰でもわかる教科書基礎レベルの問題を取り除いていることで問題数が削減され、演習問題で実際の入試問題を利用しながら定着を促している工夫はハイブリッド型参考書として高く評価できます。常々アウトプットを早くに想定したインプットにこそ意味があると述べている通り、人間は何を目的にしているのかわからないインプットはすぐに忘れるか、理解度が極端に低くなります。そういった気づかぬうちに生じる問題を回避できる利点は計り知れません。

 次に、得点に直結する解説講義です。本書の解説は『入門問題精講』にあるような理解を促すというより、入試問題を解くための要点を押さえた解説と言った方が正確と思います。この辺は文系の数学というより理系の数学と言いたい印象ですが、解説に冗長性がないため、問題数の少なさも相まって入試数学をシンプルに捉えられるようになっています。また、1問ごとに解説講義があるため、ただ問題を解いて終わりにしない、まさに重要事項を完全習得させるための参考書に仕上がっていると言えるでしょう。本書のコンセプトには一貫性があり、そのコンセプトに合わせたレイアウトも見やすく、問題の選定にも納得するということで選ばれる理由がよくわかります。全体的に完成度は極めて高いと思います。

本書には2025/11/01現在1件の誤植が報告されています。P58 解説講義3行目「隣り合っていない」ではなく、正しくは「隣り合っている」です。公式サイトのリンクはこちら

本書の構成と解説の一例

 本書には「この本の効果的な使い方」として冒頭に使い方が丁寧に書かれてあります。

文系の数学 重要事項完全習得編
構成数と式
集合と論理
2次関数
三角比
データの分析
場合の数・確率
図形の性質
式と証明
複素数と方程式
図形と方程式
三角関数
指数・対数
微分・積分
数列
ベクトル
統計的な推測
数学と人間の活動(整数の性質)
レイアウトチャート式とほぼ同じ。ページ上部に問題、中部に解答、下部に解説講義となっています。
その他演習問題(115問)は全て過去問、別冊解答・解説(63ページ)、文系数学の必勝ポイント(重要事項の要点を簡潔に整理)、One Point コラム

[1]で証明した不等式が「相加平均と相乗平均の大小関係」であり, [2]のような分数式の最大値, 最小値を求める問題で用いられることが多い. 相加平均と相乗平均の大小関係は, 分母を払って, a+b≧2√abの形で使うことが非常に多いということもしっておくとよい.
改訂版 文系の数学 重要事項完全習得編 P82より引用

 このように解説講義では入試で問われる論点とその注意点を丁寧に述べています。この講義はよくある講義系の参考書とは異なり、どちらかというと「補足」に近い形でスッキリしていますが、1問を1問で終わらせない応用力を高める重要な講義なので必ず読み込みましょう。また、本書は「文系の数学」としながらも理系の数学IA・IIBの基礎固めとしても機能します。

「旧版→改訂版」の違い
例題の増加152→158
演習題の減少120→115
その他・演習題は全体的に差し替えられている(一部は同じ)
・演習題に出題大学が表記された

 ちなみに本書の次に位置づけられる『文系数学 実戦力向上編』は、本書と数学IIIC版が改訂されたので同様に近々改訂されるのではないかと思います。『数学III・C 重要事項完全習得編 改訂版』の難易度は入試基礎~標準ですが、これは数学II・Bまでを基礎にしているため、数学III・Cには実質的な基礎がないためです。

本書『文系の数学 重要事項完全習得編』と『数学III・C 重要事項完全習得編』は地方国公立や中堅私大志望にはかなりオススメです。

白チャート・入門基礎問題精講・教科書との比較―数学IA・IIBまで

 まず、教科書レベルという難易度の定義から確認すると、下記「白チャートコンパスのまで」とします。というのも、高校数学の教科書はシリーズによって難易度が異なり、進学校向けの教科書の章末問題には入試基礎以上の問題が含まれているため、一般的にイメージされるであろう各単元の基本計算・解法を扱う問題とかけ離れているからです。別の言い方をすると、教科書レベルの問題が完答できるなら全統模試偏差値で45~50くらいになるイメージ。

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文系の数学白チャート入門問題精講
基礎問題精講
教科書(数研NEXT)
問題数例題:158問
演習:115問
例題:約550問
全て:約1470問
入門:約250問
基礎:約340問
数学I:約270問
数学A:約240問
数学II:約360問
数学B:約150問
章末・総合問題:約270問
全て:約1290問
難易度教科書標準~入試基礎
※演習問題の方が全体的に難しい
教科書基礎~入試基礎入門:教科書基礎~教科書標準
基礎:入試基礎
教科書基礎~入試標準
白チャートコンパス表記の難易度
の難易度には諸説ある
入門:
基礎:

※白チャートの難易度を超える
対象・教科書レベルなら当たり前にできる人
・受験勉強に不慣れで薄い参考書から取り組みたい人、かつ志望校のレベルが高くない人
・網羅的な対策でとにかく安定度を優先したい人
・取り組む問題数が少なすぎて基礎が定着しない人
・教科書の代わりになる入門問題精講は独学もしやすい
・チャート式の問題数だと挫折してしまう人
・教科書基礎~入試基礎が中心になっているものの、応用まで収録されているため、考え抜いて思考力をつけたい人
解説の量入門:
基礎:
レイアウト
その他・問題数が少ない
・価格が安い、持ち運びしやすい
・問題数が最も多い
・辞書のように重い
・入門と基礎で著者が異なる
・基礎問題精講には入門レベルの問題も一部含まれている
・上記の章末、総合問題を除く問題数は「例題、応用例題、練習問題、問題の合計」

 改めて教科書の問題数をカウントしましたが、チャート式並に多いことに驚愕しています。それはさておき、問題数を見比べてみると、本書は網羅している範囲が「教科書標準~入試基礎」までと狭いものの、それでも極端に少ないことがわかります。問題数が少ないということは網羅度が低いのはその通りですが、解法のインプットを重要事項にだけ絞ることで確実に定着させ、その後に本番形式のアウトプットを積極的にすることでバランスを保つというのが基本方針になります。

入試基礎のアウトプットにオススメの問題集
短期攻略 大学入学共通テスト 数学Ⅰ・A実戦編』『共通テスト数学 過去問』—国公立志望なら積極的に共通テストの問題を導入するのが効率が良いと思います。共通テスト特有の思考力・判断力問題も考えさせる意味では悪くないつくりです。何より共通テストに早くから慣れてしまう利点は大きいでしょう。
厳選大学入試数学 文系160』—入試標準も扱っているためにやや難しいところもありますが、ヒントも何もない問題を目の前に考えること、それまでの知識の運用と確認にはちょうど良い負荷のある問題集だと思います。

 では、どれを選んだら良いのか。これは厳密に追求すると個人のレベルや相性、思考傾向、性格、志望校など多様な要素によって判断が変わります。詰まるところ、教科書は特殊な位置づけにあるとしても、それ以外の3冊は入試数学の基礎固めの方針としてしっかりと差別化されているからです。下記にそれぞれの評価をまとめます。

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文系の数学 重要事項完全習得
難関大志望の入試基礎固めとして用いる場合、高校偏差値65以上の進学校の生徒なら非常にオススメです。それくらいの進学校に通っている生徒は定期テストを3年間真面目に取り組んでいるだけでも地方国公立やMARCHにはそのまま合格できるレベルに達します=教科書レベルは余裕で問題ないことから、重要事項を取り扱う本書は優先順位と復習も意識できる最初の一冊に適しています。一方、高校偏差値60未満の場合、難関大志望ではなく、白チャートや問題精講の問題数に挫折しやすいなら取り組む価値があります。とにかく入試基礎の典型問題を確実に得点することで合格点を確保する受験戦略には有力。ただし、本書に取り組む前に入門問題精講で教科書レベルを正しく理解から取り組むこと、難関大を目指すならアウトプットの量を十分に確保することを推奨します。
白チャート
どんな志望校であろうと盤石な基礎固めを求めるなら白チャートがオススメです。問題数による挫折率が高いのは事実ですが、網羅的な対策は入試基礎までならパターン認識で解けるまでになります。いわゆる数学的なセンスに関係なく伸びるため、進学校でも数学が苦手な人、高校偏差値60未満の非進学校から難関大を目指すなら有力な選択肢です。逆に言うと、問題数を厳選した参考書はその分だけアウトプットを上手に活用できるかどうか、個人の思考力・応用力、および周囲のサポートに依存してしまいます。白チャートも使い方次第で同様の懸念はあるものの、授業や定期テストでそれなりに問題を解いて定着している人以外は基本的に問題数が足らずに失敗するケースが多く、とにかく手を動かして問題を解いて基礎を徹底的に固める方針が有力なのです。それだけ進学校と非進学校の当たり前のレベルには大きな差があります。
入門問題精講
基礎問題精講
入門問題精講は独学の強い味方。教科書レベルを身につけるなら他の参考書と組み合わせて用いたいくらいに優秀です。応用力に繋がる基礎的な考え方を提示してくれています。非常にオススメ。
基礎問題精講はチャート式の問題数を少なくしたようなイメージです。白チャートと重要事項完全習得を足して二で割ったと考えて良いでしょう。
教科書
教科書の利点は教科書基礎から入試標準まで段階的に提示されているため、基礎知識からの発展をイメージしやすく、辛抱強く考え抜くと圧倒的な思考力と応用力を手に入れられるところです。また、基礎固めの問題数としても十分にあり、教科書だけで入試基礎まで完璧にすることもできるでしょう。今ならAIによるサポートも考えられますから、教科書を本気で使い倒す方針は現実的な選択肢に入ってきているかもしれません。少なくとも教科書は確認のためにいつでも開けるようにしておくのは意外と大切だと思います。
ただ、手元にある数研出版のNEXTシリーズは独学しやすい教科書と謳われていますが、実際にこの解答解説だけで、特に証明や章末問題Bを理解するのは大変です。授業で適切に補完されるなら非常にオススメですが、独学で用いるなら丁寧に理解しながら取り組みたいところです。そんな慎重を期す必要があるなら、入門問題精講に取り組んでしまうのが早いのは間違いありません。

 アウトプットを上手に活かせるなら「入門問題精講→文系の数学 重要事項完全習得編」が安心して推奨しやすく、中学生や高校1年生の頃から先取り、数学が苦手な人が問題に慣れながら、難しいことを考えずに問題を解いて基礎固めしたいなら「白チャート」がオススメです。進学校の授業と定期テストに真面目に取り組んでいるなら、教科書の問題を復習するだけで入試基礎は問題ないでしょう。基礎問題精講は白チャートが重く感じたとき、本書の網羅性に不安を覚えたときの代替案です。

入門問題精講は改めてとても良い参考書だと思いました。教科書基礎~標準までの問題数に不足感がなく、入試基礎以降の問題に繋がる考え方にも触れているため、入試数学の入門書としては理想的です。学校の授業を聞かずに一から入試数学に取り組む人には救いの一冊になっているでしょう。

 AI時代に「入門問題精講→文系の数学 重要事項完全習得編」で基礎固めをして、その後に『厳選大学入試数学 文系160』や『新数学スタンダード演習』などの問題集に臆せず取り組む方針は魅力的です。というのも、ヒントも何もない本番同様の問題を解く経験が多ければ多いほどは本番に強くなり、得点も安定し、思考力も向上しやすいからです。アウトプット中心の学習効果は高い。学校の授業も、使い方次第では白チャートも、インプット過多に陥ったときに本番の問題に全く対応できないという事態が起こり得ます。ただ、そういうアウトプット中心の学習、本番形式の問題をガンガン解いていく方針は数学が得意な人だからこそできるところもあるので、前述した通り個人によって最適な判断が異なります。少なくとも効果的なアウトプットの方法を自分なりに確立してから取り組みたいところです。

高校数学の勉強は小学算数と中学数学によって支えられています。もし、解説を読んでいて少しでも曖昧な用語や理解を直感したときには、その場で『小学校6年分の算数が教えられるほどよくわかる』と『中学校3年分の数学が教えられるほどよくわかる』までの動線を確保しておくと安心して勉強できると思います。この2冊は独学なら特に、高校数学の勉強の際には揃えておくことを当サイトでは推奨します。

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