入試現代文の単語帳BIBLIA2000―レベル・特徴・難易度・評判【レビュー】

　普段から評論系の本を読んだり、現代文が得意な人だったりすれば別ですが、本書は中学レベルの語彙を備えたあとに取り組むものになります。勉強の基礎は国語力。現役高校生の多くは語彙力が弱点ですから、本書で語彙力を強化することが望ましいと考えます。

　本書の形式は英単語ターゲットに近いものです。一語一訳一例文。秀逸な点は、例文が大学の過去問であること。現代文のキーワード解説は流通していますが、意外とこの手のシンプルな例文形式はありませんでした。他方で漢字は合計800語と網羅性にはやや欠けます。これはおそらく本書が漢字書き取り対策ではなく、入試現代文の単語帳として『文章を読み解くこと』を目的にしているためです。

　本書の欠点を挙げるとすれば、CHAPTER5『読みが問われる漢字』の+αの誤答例が不要な情報であること、大学の過去問以外の例文があってないようなものであることの２点です。この点だけは他に記すことがなかったのかと言わざるを得ません。はっきり言って安直な誤答例は曖昧な知識に拍車をかけるだけです。その誤答例のように間違わないようにしようとはなりません。

　英単語帳ではポピュラーですが、日本語では例文を読む機会が多くありません。いきなり多種多様で高度な単語が入り混じった文章を読み解くというのは大人であっても骨が折れます。特に中学課程から高校課程への語彙レベルの上昇は顕著なので、ひとつひとつの単語を理解し、例文に触れる機会を設けなければならないのです。多くの高校生、大人が理解しているようで理解していない状態だから勉強が捗りません。

　そこで本書のように現代文が苦手になる原因を語彙力に求め、例文形式にまとめた点は高く評価できるものです。速読英単語のように『コンパクトな文章から単語を覚える形式』が日本語(現代文)においても増えて欲しいと常々思っています。いつの時代も受験トップ層は問題ないのですが、現代は全体的に子供の読解力が下がっていると指摘されています。動画全盛の時代ですから当然の流れではありますが、文章を読むことへの抵抗感が強いとなれば、それはもう勉強ができない、続かないのは必然です。

　しかし、なぜだかそこに気づかない人が多いような気がしてなりません。動画やアプリによるわかりやすい講義が増え続ける昨今に、話し言葉と書き言葉による理解の差は軽視できないはずです。日常会話に即した話し言葉は理解しやすくて当然ですが、その理解に甘んじてしまうと参考書のテキストひとつも十分に吸収できないというパターンが頻出します。そこで本書を通じて、言葉の解像度を少しでも上げてほしいと思います。

　これだけ優れた参考書や無料の講義動画が増えても、学習塾が現存している理由は『子供たちの国語力が各科目で求められる水準に対して不足気味』だからかもしれません。話し言葉で噛み砕かないと理解できない子供の方が多い。もし子供たちが十分な語彙力、延いては国語力を備えたら学習塾や予備校はなくなります。残るとしても非言語的な能力を要求される数学や物理くらいです。

　言い換えれば、勉強とは国語力を基礎とする営為に他なりません。国語は一科目に過ぎないとの認識を抱かせますが、数学や物理にのみ特化した頭の良さは別としても、基本的に言語能力が高いほど各科目の成績は上がります。少なくとも高校生向けの大学受験では、十分な言語能力さえあれば、残るは本人のやる気と継続次第であると言い切れるほどです。その言語能力を早くに育てるには、第一に国語力に全て振り切ってしまうくらいの方策が必要になるのではないかと個人的には思います。