基礎英作文問題精講3訂版—重要事項を効率的に押さえる英作文対策の決定版

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タイトル基礎英作文問題精講3訂版
出版社旺文社
出版年2022/7/20
著者竹岡 広信
目的入試英作文
対象現役生から大人まで 偏差値目安55~65
分量別冊:63ページ 講義:272ページ
評価
AI英作文問題の生成と添削
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

入試英作文の王道にして必要十分

 本書は2022年に旺文社から出版された竹岡先生の英作文の参考書です。旺文社と言えば「問題精講」シリーズが有名ですが、英語の問題精講シリーズは少々複雑になっています。入門や基礎で著者が統一されておらず、竹岡先生が『入門問題精講』と『基礎英作文問題精講』を担当しています。さらに同じ旺文社から『英文熟考』を出版しており、実質的に『入門問題精講』が英文熟考の入門書のような位置づけにもなっています。そのため、英語に限ってはシリーズで段階的に学習するより、独立した一冊に合わせて使い倒す方針が有力です。

 入試英作文の参考書はそれなりに出版されていますが、内容はどれも似たり寄ったり、得点比率を考えても、本格的な英作文を学ぶというより汎用性の高い定型表現をいかに効率良く押さえるかに偏っています。一部の最難関大(特に京大)の英訳問題だけはもう少し腰を入れた対策が必要となるため、その場合は竹岡先生の『竹岡広信の英作文が面白いほど書ける本』が充実した内容として推奨されるに至っています(568ページ)。

 では、その中で本書の評価はどうなのか。結論から言うと、もともと大部分の受験生に適したバランスの良い内容でしたが、このAI時代に重要事項を的確に押さえた拡張性の高い内容として改めて高い評価に繋がっていると思います。まず、レイアウトが見やすく、竹岡先生が最近出版された『大学入試 読むため書くための英文法ハンドブック』と連携もしやすそうです。分量はページ数の割に多めですが、難しすぎず簡単すぎずで無駄がありません。物理や化学の『重問』のような本当に意味のある問題と知識だけを集めています。和文英訳だけではなく、自由英作文も含まれているため、一冊で幅広い英作文対策を行うこともできます。

今はAIの補完によってアウトプットの質を高められる時代なので、いかに重要事項を手早く押さえられるか、すなわちAIとの連携で伸びていく軌道に乗せられるかが受験戦略としては重要だと思います。もし、不足感を覚えても第一にアウトプットの量を増やすこと。AIと『読むため書くための英文法ハンドブック』で実践的に学べば誰でも力に変えられるでしょう。

本書の構成と解説の一例

 入試英作文の分野で有名な竹岡先生の安心感には大きなものがあります。英作文関連の参考書だけでも10冊以上は出版しているのではないでしょうか。LEAP然り、実用英語も早くから意識しており、例文にしても解答にしても全て自然な表現を心掛けてネイティブチェックにも余念がない印象です。

 本書は基本的には和文英訳と自由英作文の講義に近い参考書ですが、別冊から問題集のように使用することもできます。各テーマの問題文について一度自分で考えてから解説を読むと力になると思います。

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基礎英作文問題精講
内容基礎構文編100テーマ
鉄則・論理表現編26テーマ
自由英作文編50テーマ
※問題はほぼ過去問で構成
基礎構文編主語の決定
時制の決定
時間の表現
助動詞が中心の表現
動詞が中心の表現
関係詞と間接疑問文
目的・理由・否定・譲歩・仮定・比較など幅を広げる表現
鉄則・論理表現編書き出す前にすることがある
文章の構成を意識して書く
英文のスタイルを守って書く
採点基準の例を見てみよう
立場を表明する
利点と欠点を述べる
理由を述べる
譲歩のあとに主張を述べる
具体例を述べる
対比する・類似点を述べる
相違点を述べる
結論を述べる
グラフや表を説明する
尊敬する人, 印象に残った経験などを述べる
希望や夢や実現困難な願望を述べる
自由英作文編意見論述問題
図表資料問題
個人的な体験・考え
描写・説明
手紙・メール
その他の自由英作文重要テーマ
音声・動画暗唱用英文音声・学習アドバイス動画
その他別冊暗唱用英文(148)、基礎構文Excercises

 本書は「基礎」と冠していますが、入門的な内容は含んでいないという点は正しくとも、全体的に情報量が多いので軽快に終わらせられる内容ではありません。そもそも英作文は一から取り組むというと語弊があり、それまでの単語と文法の知識で入門部分だけは自然にできていないと話が進みません。入門らしい入門の概念がないと言っても良い。曖昧な文法知識のまま取り組んでも力にならず、また入門部分で済む試験難易度なら本書による英作文対策は不要です。

 以下の引用は「当日もし雨になりましたら, ダンスコンクールは体育館で行われます。」という問題の解説の一部になります。「研究」として文の骨格を分けて解説しています(①当日もし雨になりましたら)。

①「当日もし雨になりましたら」は, 「雨になるかならないかわからないが, もし雨になったら」の気持ちを表す直接法を用いて If it rains とします。「当日」は「その日に」と考え, on that day とします(onは付けなくてもよい)。「雨になる」は, 天候・寒暖を表す文の主語 it を用いるのが適切です。it is rainy「(一日中)雨模様である」も可です。
基礎英作文問題精講3訂版 P34より引用

 基礎構文編100テーマに論点の被りはなく、問題文から複数の汎用性の高い知識を抽出しています。各テーマの最後にExcercises(演習題)が付属し、別冊で簡単な解説と別解も提示されています。

 次に鉄則・論理表現編では英作文を書く際の注意点と英作文に必須の文法事項チェック、採点基準例、自由英作文で論理的な表現をするために必要な考え方が説明されています。以下の引用は「1パラグラフ1トピックを徹底する」の解説です。これは長文読解でもよく解説されていますね。

日本語のコミュニケーションでは聞き手・読み手に解釈がゆだねられる傾向がありますが、英語では書き手の側に「きちんと伝える責任」という流れで自分の立場や意見を最初に述べ、それを丁寧に説明する(主張+具体化)という流れで文章を書きます。これは文章を構成する各段落(パラグラフ)にも同じことが言えます。複数の要素を盛り込まずに「1 つのパラグラフでは本当に伝えたい 1 つのことに絞る」ことが重要です。かといって同じ文を繰り返すのは稚拙な印象を与えるので、表現を変えたり具体的な例を挙げたりします。
基礎英作文問題精講3訂版 P118より引用

 そして、自由英作文編では様々なテーマに応じた解答例が示され、類題が出題された大学一覧や同系統の問題の例示もあります。自由英作文の書き方は論理表現編を参照。同系統の問題が例示されている点はAIで生成するときのヒントにもなります。

 総評としては全体的に非常に完成度の高い一冊だと思いました。隅々まで丁寧に執筆され、類書と比較しても第一に薦めたいのは本書です。欠点を挙げるなら「なぜそうなるのか」の解説がやや弱いところが散見されることですが、ここはAIで補完すれば問題ないでしょう。本書よりも易しいところからという意味ではZ会の『はじめる編 英作文トレーニング』もオススメですが、シリーズ4冊の分量が重く、どちらかと言うと丁寧に学び直したい大人向けかもしれません。定型表現の網羅性も優秀で和文和訳の解説から始まるので最難関志望には推奨できます。本書には和文和訳の直接的な解説はありません。和文和訳の解説の必要性に関しては「難解な英訳」を想定するとあった方が良いのですが、それもちょっとしたコツと国語力に帰結する問題ではあるので、本書で力を備えたあとに和文和訳必須の英訳問題集や過去問を追加すれば最難関まで綺麗に収まると思います。

 また、英作文には入門の概念がないと述べましたが、本書に取り組むまでに英単語帳を利用した英作文トレーニング(例文和訳から英訳)を積んでおくとより良いと思います。その量が十分であれば、英作文は自由英作文対策のみに絞れる期待も持てます。さすがにそれを地で行くのは大変としても、単語と文法を学習しながら自分でも表現することをどこかで想定しないと本書での対策がかなりの負担になってしまいます。

本書よりもページ数が多い『竹岡広信の英作文が面白いほど書ける本』は最難関大を想定するときに推奨されますが、情報量という意味ではそこまで差があるわけではありません。1ページあたりの情報量は本書の方が多いです。『英作文が面白いほど書ける本』は現役生にわかりやすいポイントとパターンをより基礎から分解して網羅している点が評価されているのだろうと思います。対象を偏差値(全統)で表すと、本書は「55~65」、『英作文が面白いほど書ける本』は「50~65+α」といったところです。

AIによる添削とコロケーション情報

 本書のような参考書で英作文の肝を押さえたあとは、今ならAIを使ってアウトプットを積極的に行っていく方針が有力です。英作文はAIの得意分野。ランダムに生成してもらうのも、苦手分野対策、自由英作文の論理展開のチェックなど何でもできます。AIの信憑性が気になったときは複数のAIに同じ質問を投げるか、そこで初めて既存の問題集の追加を検討すると良いと思います。それにしても一度本書のような体系化された知識を学んでしまえば、本書の知識を起点にAIにあれこれ質問して拡張できるなんてとんでもない時代になりました。

 そして、英作文のアウトプットではコロケーション情報を意識するとより良いと思います。英作文は文法が正しければ表現として正しいわけではなく、ネイティブから見た自然な表現(単語の適切な組み合わせ=コロケーション)、できたらニュアンスまで押さえてこそですから。直訳気味のぎこちない英訳から脱却するまでの量を稼ぐ意味では、前述した英単語帳を利用した英作文トレーニングも手軽にできて効果があります(だから例文の質は大切)。入試英作文の得点だけを考えると少し遠回りのように感じるかもしれませんが、ひとつひとつの表現を調べるだけで本質的な英語力の向上に繋がります。

 さらに、コロケーション情報が蓄積すると、単語の組み合わせにもどんどん有機的な意味が見出されて記憶の定着率を上げていきます。四技能をバランス良く伸ばすことこそが英語学習では重要であるというのを実感するでしょう。これは英語だけではなく、科目同士の相乗効果にも言えることであり、だから頭の良い人は雪だるま式にどんどん頭が良くなっていきます。ちなみに英作文なので和英辞典があるとより良いのはもちろんですが、コロケーション辞典『Oxford Collocations Dictionary for Students of English(2nd)』もあると便利です。辞典を引くひと手間は知識の獲得だけでなく、学習意欲継続の観点からもきっと良い影響があります。※紀伊國屋書店のオンラインストアで買えます

英作文は添削の事情から独学しにくい分野でしたから、AIによって本当に大きく変わりました。その影響というわけではありませんが、横並びの時代に突入していくと入試英語の難化は避けられないのだろうと思います。一昔前に比べたら時間制限の厳しさは明らかですし、もしかしたら英作文も今まで以上に文脈とニュアンスの適合性を判定していくかもしれません。関先生の『The Essentials 最難関レベル』の内容からしても、学習塾や予備校以外にAIの力で最難関に参戦できる人が増える意味でも、少なくとも最難関レベルの競争は激化していくでしょう。

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