歴史総合 日本史/世界史探究 流れと枠組みを整理して理解する―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル流れと枠組みを整理して理解する 日本史 世界史
出版社旺文社
出版年2023/9/25
著者清水 裕子、梶沼 和彦
目的教科書~共通テスト対策
分量256ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・歴史科目の受験勉強を本格的に始めた人
・国公立志望、共通テストで7~8割を狙いたい人
・高校教材を用いて学び直しを考える大人

【到達】
・共通テストで問われる思考力問題への対応力が上がる
・歴史の流れを捉えながら知識を整理できる

 本書は2022年に刷新された学習指導要領に対応した日本史/世界史の参考書です。従来の日本史Bと世界史Bがそれぞれ「日本史探究/世界史探究」となり、日本史Aと世界史Aは「歴史総合」に統合されました。歴史総合とは、近代以降の日本史と世界史を合わせたものです。日本史B/世界史Bと日本史探究/世界史探究は教科書の範囲と内容こそほとんど同じですが、教育方針がより考えさせることを意図した内容に変化しています。理科科目で言えば、実験考察に力を入れるに近い。

 これは共通テストからもわかるように、センター試験のような単純暗記で対応できた問題が減り、歴史の流れを把握しなければ解けない問題、あるいは把握しておくことで解ける問題が増えました。以前までは「歴史の流れや枠組みは把握しておけたら理想、そういった縦にも横にも精通する必要があるのは難関大志望のみ、暗記の手助けとしての背景知識に過ぎない」といった認識が強くありましたが、今は逆です。背景理解からの暗記。共通テストの英語が実用性を意識してリスニング得点の比率が上がったように、歴史科目も知っているだけに終わらない能力を要求するように変化しつつあります。

本書は図解が少なく、テキストメインの参考書です。歴史科目は特に国語力が前提となるため、いくら勉強しても頭に入らない、覚えられないという人は国語力を伸ばすことから考えてもいいかもしれません。国語力が足りないほど重要語句をなんとなく拾うだけの読み方が抜けないと思います。

なぜ?を与えて考えさせる良書

 本書は歴史科目対策のみならず、勉学の本質的な姿勢を養うには非常に良い参考書です。「近代化とはどういうことですか?」「大衆化とはどういうことですか?」「第二次世界大戦の影響はどのようなものですか?」と歴史科目ならではの論点を提示し、それらについての背景知識と共に論理的に解説しています。

 これは学習の初期段階ほど影響が大きく、例えば最初に一問一答形式をひたすらに取り組むのと本書を比較したら、その後の成長の差は一目瞭然と思います。要するに知識の体系化が異なるわけです。勉強は第一に考えることが重要ですが、勉強が苦手な子ほど問題と答えの1対1対応に囚われてしまいます。考えることが苦手な子ほど単一の方針、これさえしていればいいと言わんばかりのことに身を委ねるのです。

 本書のコンセプトは主に講義系参考書に含まれる内容にもなっていますが、より直接的、かつシンプルな論点を与えてくれる分、本書の方がわかりやすくなっていると思います。網羅性という意味では心許ないですが、本書をきっかけに歴史的な知識の正しい吸収方法を理解できる点が大きい。ただ、講義系参考書と同様に、本来なら授業で補完される論点ではあるので本書が必須の参考書とは言いません。

歴史科目が苦手な人ほど本書はオススメです。どういう考え方で取り組めば良いのか?といった初期段階の苦悩が解消されます。また、国公立志望で共通テスト7~8割を目標にしているならちょうど良い。以前に紹介した『よくでる一問一答 日本史』『よくでる一問一答 世界史』と本書を併用することで重い歴史科目を軽快に攻略することができます。歴史科目は“9割以上を狙う労力”と“8割で妥協する労力”にはかなり大きな差がありますから、早い段階で線を引きたいところです。

学び直しにもオススメ

 本書は歴史の授業を受けられない大人にもオススメです。本書の論点は膨大な分量を持つ歴史科目の一部に過ぎませんが、一般常識とも言える重要な論点を扱っています。特に近代以降は公共・政治経済・倫理といった科目でも登場する概念や歴史的事実も含まれ、国語の現代文で頻出のテーマとキーワードの背景知識にもなっているため、歴史総合(近代以降の日本史と世界史)の部分だけでも価値があります。

 また、歴史科目からは物事の背景を考える力を養えますが、本書はそれを地で行くコンセプトが類書にはなかなか見られないのです。今の時代に合った参考書。これは歴史科目の対策に留まらず、本質的な思考に繋がります。ありそうでなかったかもしれません。一般的な講義系参考書は歴史的事実をわかりやすく解説することに重きが置かれ、本書のような捉え方から試験に合わせるものは少なかったと思います。

 余談ではありますが、ついつい人間は表面的な事実ばかりに囚われ、物事の本質を考え抜く前に自らの認知バイアスに、簡単に言えば感情に振り回されてしまう人が少なくありませんよね。目の前の事実は「点」ではなく、「線」であることを念頭に置けることは人間関係においては他人への愛情や優しさにも繋がります。歴史は常に線を学び、立場によって変わる認識や解釈も知ることができます。人間や物事が多面的であり、時間的な存在であることを感覚的に理解できると、焦らず、騒がず、粘り強く人間や物事の本質を考え抜ける人間になっていけるはずです。

試験で得点するために暗記が重要視される科目なのは事実ですが、大人の学び直しなら暗記は必須ではありませんから、本書のような流れと枠組みを把握できる参考書はそのまま教養へと繋がっていくでしょう。本書を手に取る際は歴史的な事実の連なりだけではなく、歴史的な思考まで学んでほしいと思います。

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