Vision Quest 総合英語Ultimate―総合英語の比較あり

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タイトルVision Quest 総合英語Ultimate
出版社新興出版社啓林館
出版年2022/3/1
著者野村恵造
目的高校英文法
対象英語を学びたい全ての人
分量768ページ
評価
AI気になるところを全て質問する
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

難関大向けの総合英語

 本書は啓林館から2022年に改訂された総合英語Ultimateの第2版になります。啓林館と言えば、地学基礎のみの取り扱いが多い中で「地学」の教科書まで出版していることで(個人的には)有名な出版社です(※令和8年度は不明)。そんな啓林館から出版されている総合英語には『Vision Quest 総合英語』と本書があります。一般的な高校生向けの『Vision Quest 総合英語』に対して、本書はおそらく難関大向けの総合英語ということで「Ultimate」を冠しています。ページ数の差は約100ページもあり、難関大に向けて覚えておきたい文法事項が多めに掲載されています

従来の参考書では「高校生にはレベルが高すぎる」とされてきたことや, 伝統的な「文法書」の概念からはみ出しそうなことでも, 皆さんの将来を見越した土台作りに必要であれば, 思い切って盛り込むことにしました。
Vision Quest 総合英語Ultimate はしがきより引用

 英文法の幹となる名詞や動詞、関係代名詞、仮定法などの解説は無印と比べると全体的にあまり変わりませんが、本書は引用にあるような将来英語を使いこなすことを前提にしたTipsが多く盛り込まれています。具体的にはPLUS α や英作文のコツ、質問箱など難関大の先まで見据えた繊細な情報の数々です。その分、1ページあたりの情報量はかなり多いため、良く言えば本書だけで十分な知識を網羅できますが、英文法を概観する目的では少し使いにくいかもしれません。英語初心者が細かな知識に囚われずに全体を把握するためなら、やはり関先生の『真・英文法大全』が使いやすいと思います。

Q No student was injured. は間違いですか。
A (1)のように, No students were … と student を複数形にする方が一般的ですが, 単数形にしても間違いではありません。「1人も~ない」ことを強調する場合は単数形を使います。 〈not a (single) + 単数名詞〉を使うとさらに強調されます。
(1) No students were injured. (誰も)
(2) No student was injured. (1人も)
(3) Not a (single) student was injured. (ただの1人も)
Vision Quest 総合英語Ultimate P377より引用

 しかしながら、本書の完成度は極めて高く、従来の総合英語にはなかった現代的な情報も収録されています。加えて「動名詞のみを目的語とする動詞」「慣用的な独立分詞構文」「人の性質や人柄、能力を示す形容詞」「会話のためのプレハブ表現」など入試で問われる知識が余すことなく一覧でまとめられていますから、本書一冊だけで入試英語のすべての知識を押さえられてしまうのではと思うほどです。章末問題も地味に使いやすい。教科書にしてもそうですが、本当はそれ一冊だけでも多くの学びと成長が見込めるなら、参考書の数は削りに削って一冊を多角的に活用する方針が理想ではあります。特に今はAIによって知識を拡張することが容易ですから、それが現代の受験勉強の最適なスタイルかもしれません。

 本書には解説の間を埋めるように配置されたTips「英語のリアル」でよく使われる表現やニュアンス、使い分けについて取り上げ、他にも引用にあるような情報が多数収録されています。現役生には情報として細かすぎる可能性もありますが、大人の学び直しや英語中級者以上には有益な情報として映ると思います。こういった点は以前に紹介した佐藤先生の『SKYWARD総合英語』に近いものがあります。だからこそ文法偏重の印象はなく、全体的にバランスの良さを感じます。ちなみに佐藤先生の文法書をアカデミックの枠組みに位置づけるなら先駆けでした。『SKYWARD総合英語』ではさらにディベートやプレゼンで使える表現、(リズムとしての)発音、単語の成り立ちなど本書以上に実用英語を意識した情報が収録されています。

共通テスト以降の総合英語は良い意味で変化があります。入試のために覚えるべきところは残しながらも、英米的な発想にも触れて知識を柔らかくする工夫を感じさせます。

本書の使い方

STEP
通読しながら文法用語と単元ごとの理解を深める

本書のように情報量が多い文法書は辞書利用が推奨されそうですが、総合英語なら最初に通読することを推奨しています。本書は「1日1単元なら24日+α」が目安です。まずは文法用語に慣れること。単元ごとの理解を大雑把でも努めること。章末問題は解かなくても構いません。一覧になっている知識は場所(ページ)を記憶しておくだけで十分です。

STEP
文法語法問題集で知識をチェックする

再び頭から通読するのも悪くありませんが、本書と問題集を往復するように理解を深めた方が効率は良いと思います。問題集は『文法語法良問500+4技能』がオススメ。面倒でも往復した方が記憶の定着は促進されます。今ならAIに補足説明を求めるの有効です。もし、全く手も足も出ないと感じたら、本書を片手に調べながら解きます。解く際は必ず根拠を提示すること。

STEP
拾い上げられなかった情報を中心に復習する

知識と理解が増えると、新しいものが見えてくるようになると思います。人間が一度に把握できる情報には限りがあるため、そこからはみ出た情報を中心に2周目を読み込みます。例文集があるなら文法事項を思い出しながら音声を使ってリスニングと音読を繰り返します。

 この後は同じ要領で文法語法問題集も復習します。定着が足りないと感じたら復習回数を増やすこと。ここまで取り組めたら文法語法の知識に関して怖いものはなくなるはずです。TOEFLやTOEICなどを想定しても一生使える基礎知識が身についています。また、本書を読み始めた段階でわからない単語があったとしても気にせず、よく見かける単語だけ自然と覚えられたら十分です。最初はとにかく日本語の解説から英語の理解に努めること。本書には文法に絡めたTipsが多いので読んでいるだけでも楽しめると思います。

読んでも読んでも理解が進まないと感じたときは国語力の強化を優先すること。後述する国文法も大切です。理解が甘い人は問題集が効果的に働きます。誰しも最初から完璧な理解はできず、失敗を繰り返して完璧に近づいていきます。

 文法はとにかく読んで理解する以外に言うことはありませんが、一つ言えるとすれば、AIを利用して本書が擦り切れるまで知識の拡張と深化を行うことです。疑問点を残さないこと。かつては理解が足りないときに追加の参考書を選んでいく必要がありましたが、今は参考書一冊をとことん独学で理解できる時代です。単に参考書を読むことが勉強ではなく、参考書+AIまで意識しないと効率に大きな差がついてしまいます。

だからこそ「何を土台(枠組み)にするのか」が重要な論点になっています。解釈の時代。情報量の多さや難解さがあまり気にならないどころか、むしろ積極的にそういう参考書を求めた方が力に変えられるかもしれません。

総合英語の比較

 現在、手元にあるアカデミック系文法書の中から『Vision Quest 総合英語Ultimate』『EVERGREEN』『ブレイクスルー総合英語』『コーパス・クラウン総合英語』『FACTBOOK』『ジーニアス総合英語』『SKYWARD総合英語』を簡単に比較したいと思います。一番のオススメは何か。『Vision Quest』の無印は除外。

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総合英語Ultimate[第2版]EVERGREENブレイクスルー総合英語[第2版]コーパス・クラウン総合英語[初版]FACTBOOK[第2版]ジーニアス総合英語[第2版]SKYWARD総合英語
ページ数768672641704592701755
レイアウト
解説
網羅性
初心者向け
その他受験英語に役立つ情報が充実最も有名。オーソドックステキストが多め問題数が多いシステマチックに理解できる英和辞典のジーニアスならではの高品質な例文実用英語重視

 改めて思いましたが、正直どれもあまり変わりませんでした。他にも『総合英語be』や『クラウン総合英語』などもあるのですが、一昔前のアカデミック系総合英語はどれも似たり寄ったりです。『コーパス・クラウン総合英語』と『クラウン総合英語』の関係は本書と無印と同じ。傾向としては出版年が古いものほどページ数が少なく、テキストの解説が多めに感じます。また、学校販売の場合はどれも例文集が付属するのですが、特に本書や『ジーニアス総合英語』は800以上の例文を備え、市販の参考書にある『まる暗記ゼロの[頻出]英文マスター』や『新・基本英文700選』などを実質的に含んでいるようなものです。さらに本書は英作文のトレーニングも付属する充実ぶり。

 そうした似たり寄ったりの中でも初心者に推奨しやすいものは『ジーニアス総合英語』と『FACTBOOK』です。『ジーニアス総合英語』はオーソドックスな文法書で質の高い例文と音声が使いやすく、改訂もしっかりとされていて今となっては『EVERGREEN』に代わって薦めやすくなりました。『FACTBOOK』は『一億人の英文法』でお馴染みの大西先生による総合英語です。最新版(第3版)は「656ページ」と大幅に増加していますが、それでもページ数増加の流れの中では少なめ、第1版なら533ページとさらに少なくて使いやすいと思います。総合英語らしくないシステマチックな解説なので、相性が良ければさらっと通読できます。

 他方で難関大を想定すると、本書の長所が際立ちます。本書は難関大に向けて文法学習の段階で備えておきたい知識を網羅的に押さえているため、隅々まで理解できたときの到達点は頭一つ抜けています。難関大入試のための文法書の完成形と言っても過言ではありません。『コーパス・クラウン総合英語』は最新版次第で評価は変わりますが、現役生が押さえておくべきポイントを把握しやすく、本書よりも情報量が少し抑えられているということで使いやすさでは上だと思います。『EVERGREEN』と『ブレイクスルー総合英語』は改訂が為されていませんが、どちらも読みやすい標準的な解説です。『SKYWARD総合英語』は実用英語の情報を多めに知りたい人にはオススメ。大人の学び直しなら筆頭候補です。

結局、どれが一番オススメか。本書『Vision Quest 総合英語Ultimate』が最も完成度が高くてオススメかもしれません。やはり覚えておくべきことを覚えないと始まらないところがあり、本書はそれらを網羅的に取り扱っているところが良いですね。基本の会話表現も本書だけで間に合ってしまいます。もちろん、アカデミック系以外なら関先生の『真・英文法大全』がレベルに応じて読む量を調整できるのでオススメです。

国文法から英文法へ繋ぐ―文法学習の意義

 マニアックな文法知識が必要とされた入試英語やネイティブチェックのない英語参考書、ネイティブの感覚から大きく乖離した英語教育に批判もありましたが、実用英語が急速に浸透しつつある今の日本の英語教育なら個人的にそこまで悪い印象はありません。それは本書のような文法書にも現れていて、日本人による英語教育に欠点はありつつも、だからこそのわかりやすさもあります。

 そもそもなぜ英文法がわかりにくいのか。英文法を学ぶのか。これは中学国語の国文法(日本語文法)の定着が悪いために、その延長線上にある英文法の理解が進まないからではないかと考えています。なぜ定着が悪いのか。日本語環境下なら(文法学習無しで)日本語を身につけられてしまうからです。国文法の知識は逆にややこしくさせるだけと感じている人もいるでしょう。子供ならなおのこと。英語話者にとっての英文法も同じ。しかし、他言語の理解に文法は不可欠であり、何事も共通項の発見は思考のきっかけになりますから、国文法の知識を備えている人ほど英文法の解説に心理的な抵抗がなく、日本語との対比によって関連づけが増えて文法知識の定着も進むはずです。

 では、国文法をはじめ、英文法を徹底的に学ぶべきか。言語学習の場合、意味を理解できる程度の情報を大量にインプットすること(多読多聴)で認知的なブレイクスルーを起こして、いつの間にか自然な表現が口から出てくるなんてこともあります。これは「なぜ文法を勉強するのか」の答えにもなっており、それは一言で言えば「多読多聴の質を上げるため」です。中学英文法が曖昧な人と高校英文法が完璧な人が同じように多読多聴したとき、英語力の向上は後者が圧倒的に優れています。平たく言うと、人間の頭を良くするには触れる情報の質を上げれば良いということ。つまり、文法学習は多読多聴の学習効率をどの程度まで求めるのかという話になります。その塩梅というのは目的次第、人次第ではあるのですが、個人的には高校英語(英検2級)がちょうど良い目安だろうと考えるに至っています。そして、それを完了するための文法書として本書はとても充実する選択肢になっています。

では、なぜ多読多聴(留学も同じ)が重要なのか。これは無意識的な学びが大きいからです。人間は1割程度しか意識的には行動しておらず、9割は無意識的な行動と言われています。要するに、実践から得られる情報量は意識的な学習による量を優に超えているということ。しかしそれは意識的な学習をある程度積み重ねないと感じ得ないものでもあります。意味のある情報を得れば人間は自動的に学ぶ。言語学習においてはそこが非常に大きいのだろうと思います。

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