京大入試に学ぶ 英語難構文の真髄

タイトル京大入試に学ぶ 英語難構文の真髄
出版社プレイス
出版年・価格2016/3/1 1980円
著者小倉 弘
目的・分類英文解釈
問題・ページ数305ページ
総合評価
対象・到達レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達レベル

【対象】
・早慶、京大志望の受験生、英検準1級以上、英語の理解を深めたい社会人

【到達】
・京大の和訳問題に対応できる
・難しい構文を正確に理解できるようになる

 京大英語は英訳・和訳問題が特徴的です。よく東大と早慶の英語が比較されますが、英文の難しさという意味では早慶が頭一つ抜けていると言われています。東大は総合力・処理能力重視の問題なので、難しいというより忙しい試験。他方で京大はどうかというと、東大とは対照的にじっくり考えさせる試験です。早慶とは違った意味で非常に難しくなっており、その難しさの一つに難構文を含んだ和訳問題があります。記述式ゆえの誤魔化せない点も含むと、日本一難しい(総合大学の)入試英語は京大と言っても過言ではないかもしれません。

 本書はそんな京大の過去問から解釈の力を向上させる126題を抽出しています。レイアウトは例題+解説のよくある形式です。解説として構文研究と英文解説、訳例、そして教訓が添えられています。全ての英文に語注もついているため、読解力と語彙力の両方を高められるようになっています。

 こうした難構文を解説した英文解釈にしては出版年が2016年と比較的新しいのですが、80、90年代の過去問も含まれているため、英文の難易度はかなり高めです。現代受験英語は語彙や構文の難易度を抑えた語数重視の長文読解が主流ですから、京大志望以外は本書に取り組む価値はないと言って良いと思います。難易度の高い英文が出題される早慶であっても、本書よりもっと適した参考書があります。

構文研究

 英文におけるonlyの位置は原則として2つ考えられる。1つは修飾される語(被修飾語)の直前。もう1つは not と同じ位置である。only は「~しかない」と訳す場合があることからもわかるように否定語の仲間なので、not と同じ位置に置くのは至極当然である。ところが、日本人学習者は not の位置に only が来ると、only の修飾する部分が離れるために(遠方修飾)、それを把握しきれず誤訳してしまいがちである。

京大入試に学ぶ英語難構文の真髄 P90より引用

 本書は京大志望、および英語中級者~上級者の大人向け英文解釈に分類します。英文解釈はどれも読み物としておもしろく、本書のレイアウトは個人的に好みで見やすいものでした。英文解釈は大は小を兼ねるわけではありませんから、過剰学習に陥らないように必要最低限を意識した方がより良いと思います。以下に英文解釈を難易度別に並べておきます。

英文解釈の難易度一覧

【導入】

基本はここだ!

【最初の一冊(偏差値~55)】日東駒専、地方国公立

読解のための英文法(必修編)』『超入門英文解釈の技術60』『入門英文問題精講(4訂版)』

【偏差値55~60】成成明学、金岡千広

入門英文解釈の技術70』『英文解釈ポラリス1』『英文熟考 上』『ビジュアル英文解釈PART1

【偏差値60~65】MARCH、準難関国公立(横国、筑波、神戸など)、旧帝大(北海道、東北、九州)

読解のための英文法(難関大編)』『基礎英文解釈の技術100』『英文解釈ポラリス2』『英文熟考 下』『ビジュアル英文解釈PART2

【難関導入】

ポレポレ英文読解プロセス50

【偏差値65~70】早慶、東京一工

英文読解の透視図』『英文解釈クラシック』『英文解釈code70』『英文解釈の技術100』『英文標準問題精講

【最難関】

英文解釈教室』『英語難構文の真髄(本書)』『英文解体新書』※英文解体新書は大学受験レベルを超えています。

【番外編】

英語リーディング教本』品詞分解・構造分析など文法知識から英文を緻密に理解できる。

※偏差値は全統模試(河合塾模試)

 あくまで目安ですが、有名どころの英文解釈を難易度別にまとめると上記のようになります。西きょうじ先生の『基本はここだ!』と『ポレポレ英文読解プロセス50』は思考プロセスが非常に参考になるため、それぞれ導入として位置付け、英文解釈の全体像を把握する目的で推奨します

 最初の一冊に挙げている『読解のための英文法』と『超入門英文解釈の技術60』はしっかりと基礎から始まり、偏差値で言うと50~60まで網羅されている印象です。【偏差値55~60】にまとめたものは基礎の基礎から始まっているとは言い難く、かと言ってMARCHレベルまで全て網羅されているとも言えないという位置づけです。ここから始めても良いけれど、積極的には薦めにくい。

【偏差値60~65】は、ひとまずここまでやっておけば解釈で困る大学はほとんどなくなります。早慶レベルであっても、多くはここまでで十分です。心配なら最後の一押し『ポレポレ英文読解プロセス50』で難解な英文に対する思考プロセスだけ補完しておけば万全と思います。逆に言うと、ここまでしっかり終えたのに得点できない場合、解釈以外の要因(主には単語力)を疑った方が良いでしょう。

【偏差値65~70】+【最難関】は英語を得点源にしたい人向けですが、自己満足の域に入りつつあるような気がしなくもありません。本当にここに書かれてあるものを理解して試験に活用できているのか、それよりも基礎徹底、単語や文法の再確認が優先されないか。昔から支持されているものは内容自体は素晴らしくとも、現代の入試傾向とは異なりますから、採用するにしても出版年が新しい『英文解釈クラシック』と『英文解釈code70』、京大志望向けに本書を推奨します

【オススメ参考書ルート】
A=『基本はここだ!』、B=『読解のための英文法(必修編+難関大編)』、C=英文熟考(上下)、D=ポレポレ英文読解プロセス50、E=英文解釈クラシックor英文解釈code70
・MARCH A→B、Bのみ
・準難関国公立、旧帝大 A→C、Cのみ
・早慶 A→B→DorE、A→B→D→E
『基本はここだ!』『ポレポレ英文読解プロセス50』は薄くて安くて質が高い。基本とは言いながらも、簡単ではありません。最新の入試傾向を反映しているかどうかの不安要素はあるものの、解釈を俯瞰できる読み物として評価しています。
『読解のための英文法』は入り口も易しく、読解に必要な解釈をコンパクトにまとめているため、難関大編まで取り組んでも負担が小さい。MARCHまでの私立志望なら特に使いやすい。
『英文熟考』は和訳問題が出題されるような国公立向き。『読解のための英文法』より解釈に寄っている=理解の要求が高い=負担が大きいため、講義音声を上手に活用したい。
『英文解釈クラシック』『英文解釈code70』は最難関対策のダメ押し、あるいは外語大のように難易度の高い学部を受験する場合に用いる。ここまで取り組む必要は基本的にない。

TOEIC・英検対策用の英文解釈

 大学入試に比べて、英検のリーディングは難しくありません。英検は語彙力重視。英検準1級以上から解釈の難しい一文の長いものも登場しますが、それでも【偏差値60~65】まで身につけておけば、英検1級であっても対応可能です。繰り返しますが、英検は語彙力。これはTOEICであっても同様です。TOEICも大学入試ほどの文章は出ません。TOEIC向けの英文解釈をほとんど見かけませんよね。

 その点で本書は過剰ではあるのですが、英検1級の難単語混じりの修飾語の長い一文には対応しやすくなります。英文の内容に関しても、受験英語と英検はそこまで乖離していないので想像以上に使い勝手が良いかもしれません。

「この英文は何を伝えようとしているのか?」といった英文の本質的な理解には解釈の力がいつまでも必要になります。その点で翻訳家ほどの高く長く険しい要求ではなく、高校生向けの大学入試で求められる本書のレベルは現実的に取り組める範疇だろう、ということでオススメしておきます。英語のみならず思考力の向上を望める良書。

英文解釈の考え方

 英文解釈は必須と言えば必須なのですが、それまでに学んだ文法知識を正確に運用すれば困らないという前提である程度まで取り組んでほしいところがあります。例えば、「前置詞+名詞」は副詞句(あるいは形容詞句)をつくることから目的語にはならない、といった説明も解釈の前に取り組む文法学習で学んでいるはず。つまり、文法知識で読めるところまで読むこと、英文解釈によって本来補完するべきは文法学習で網羅しにくい事柄です。

 この点を押さえておかないと「英文を読むために英文解釈が必要である」と誤解し、3冊、4冊と増えていってしまいます。そこで『基本はここだ!』と『ポレポレ英文読解プロセス50』などから英文読解の思考プロセスを学び、【番外編】に挙げた『英語リーディング教本』によって厳密な文法知識の運用として品詞分解・構造分析を学ぶのも有効になるわけです。

 数学で言うと、難問の解法は学ばないと全く発想できないけれど、基本問題の解法は教科書の本質的な理解で十分発想できるといった話に近い。ある意味、英文解釈は解法暗記的で冊数が増えてしまう理由もわかりますが、日本人からすると難しく感じる英文も、ネイティブにとってはむしろわかりやすく簡潔な表現に過ぎないという論理(英語脳)の理解が進めば必ずしも英文解釈に頼らなくて済むのです。少なくとも大学受験レベルなら常に文法に帰着させる意識が重要と思います。

英文法から英文読解に繋げる感覚を養うなら『英文解釈のテオリア』もオススメかもしれません。

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