速読英熟語[改訂版]—レベル・難易度・特徴・評判【レビュー】

タイトル速読英熟語[改訂版]
出版社Z会
出版年・価格2024/2 1320円
著者温井 史朗 岡田 賢三
目的・分類入試基礎~標準レベルの熟語帳
問題・ページ数
(完成日数)
(構文+熟語)1080語収録・424ページ
総合評価(熟語帳の1冊目としては) (多読参考書としてなら)
対象・到達レベル
(偏差値目安)
日常学習
(ALL)
教科書基礎
(40~45)
教科書標準
(45~50)
入試基礎
(50~55)
入試標準
(55~65)
入試発展
(65~70)
※[入試基礎=日東駒専・共通テスト・地方国公立] [入試標準=MARCH・標準~上位国公立(地方医学部含む)] [入試発展=早慶・旧帝大・医学部・一橋・東工大(科学大)]

対象・到達レベル

【入試基礎~標準】全統模試:偏差値50~60が対象

・中学英文法・単語・熟語をしっかり終えた人、難関高校入試レベルの長文を流暢に読める人

・どちらかと言えば、現役生よりも大人の学び直しに向いている

 23年ぶりに改訂となり、現代受験英語を意識した文章になりました。本書は熟語だけではなく、構文も含み、全体で1080語収録されています(熟語は約880語)大学入試に備える熟語の語数としては1000語が一般的ですが、それよりも少ない本書の到達レベルは「中堅大」と設定されています。

 確かに熟語一覧で確認した限り、中堅大(成成明学や地方~中堅国公立)までなら問題なさそうです。それよりも高いレベル、あまり難単語・熟語を出題しない国公立(学部)であれば、旧帝大であっても通用するとは思います。ただ、私立の場合、国公立よりも英文のレベルが高い傾向にありますから、早慶はもとよりMARCHであっても少々心許ない内容です。少し余裕を持つ意味でも難関国公立・私立を志望する人は本書以外の選択肢を推奨します。

本書の構成

【書き下ろした74の英文を掲載】無料音声付き(ナチュラル音声とスロー音声)、掲載した英文の解説付き(文法と構造の説明)

[1]遅刻しないようにするには [2]友達作りのコツ [3]ギャップターム [4]コーヒーの起源と普及 [5]ナレッジ・オブ・ロンドン [6]電子書籍か、紙の書籍か [7]あくびの謎 [8]仮眠のススメ [9]いいうそと悪いうそ [10]風邪をひくメカニズム [11]泣くことの利点 [12]睡眠と夢 [13]良いストレス [14]しょっぱいものが好き [15]イルカについて [16]あなたは誰…? [17]カラスの驚くべき知能 [18]プラスチックゴミによる海洋汚染 [19]火で森を守る [20]ハレー彗星 [21]脳の大きさと知能 [22]「ながらスマホ」の危険性 [23]アイスマン「エッツィ」 [24]ガラスの起源 [25]日本人の宗教観 [26]オーパーツ [27]社会的証明 [28]成人年齢 [29]食肉生産が環境に与える影響 [30]社会的慣習の違い [31]濡れるのはイヤ [32]親を敬うこと [33]短期記憶と長期記憶 [34]母親の心音 [35]光害 [36]激減するミツバチ [37]サーカディアンリズム [38]褒めるべきは努力か、能力か [39]グーテンベルクと活版印刷 [40]怒りを抑えるコツ [41]エイプリルフールの起源 [42]コアラに関する事実 [43]バイソンとネイティブ・アメリカン [44]マルチリンガルとモノリンガル [45]日本式の挨拶 [46]悪い知らせ? [47]18世紀の欧州におけるジャガイモとトマト [48]SNSのメリット・デメリット [49]文化と言語 [50]裁きと人権 [51]ファジー理論 [52]自分の国と文化を知る [53]なぜ人はリスクを取るのか [54]ラクダの図書館 [55]高校から始める金融教育 [56]集団ヒストリー [57]眠りっぱなしではない?冬眠とは何か [58]色の心理的効果 [59]暗記するなら手書きがおすすめ [60]西洋化する日本の食事 [61]言ったっけ? [62]沖合養殖が持続可能な漁場のカギ [63]「左脳・右脳」神話の真実 [64]動物の遊び [65]オンライン学習のメリットとデメリット [66]箸の歴史 [67]第一印象 [68]大学で何を学ぶか [69]先進国でも増加する貧困問題 [70]世界語としての英語 [71]目と脳の大きさを決める意外な要因 [72]ストラディバリウスは本当に名器? [73]医療現場で活躍する [74]世界を脅かす水不足

改訂版 速読英熟語 P2-3

 本書の英文は、知的好奇心を刺激する良質なテーマが揃っています。だいたい4つのパラグラフで構成された250語前後の文章です。これは速読英熟語らしい長文読解の面を意識した構成であり、最後にまとめられた英文解説によって各英文の正確な理解も目指せるようになっています。23年ぶりの改訂は伊達ではないと言わんばかりの気合の入った内容ですが、いくつか気になる点があります。

 まず、全ての英文がネイティブによる書き下ろしであるため、内容そのものを真に受けると問題があるかもしれません。一般的に予想問題集が過去問よりも高い評価を受けることはなく、熟語を詰め込むためにやや不自然な文章になってしまっている点も積極的に薦めにくい要因です。とにかく文章形式ならこだわりはないというなら問題ありません。

 次に、本書の対象レベルからして熟語を多く含んだ文章は重く映ると思います。これでは挫折してしまう可能性が高い。本書は「別で熟語を覚えた人が長文に慣れながら復習するもの」という位置づけがちょうど良く、はっきり言って最初の一冊としては全くオススメできません。長文に慣れる目的においても、わざわざ書き下ろしの文章を採用するかというと疑問です。

 総じて力作であることは認めますが、これなら多読参考書と割り切って大学の過去問ベースに、熟語を拾い上げる構成でも良かった気がします。速読英熟語シリーズとして「入門、必修、上級」と3冊(各400語程度の熟語)であれば、大学入試のための長文に正しく慣れながら無理なく熟語を覚えることができました。

網羅性ならシステム英熟語・キクジュクがオススメ

 有名な熟語帳は『速読英熟語、ターゲット熟語1000、システム英熟語』とありますが、網羅性を重視するならシステム英熟語が収録語数1674で頭一つ抜けています。さらに『キクジュクBasic・Super』もオススメです。偏差値55程度までならBasic、それ以上の大学ならSuperまで取り組むことで網羅できます。

 それぞれ偏差値別に整理すると、『速読英熟語=50~60』『ターゲット熟語1000=50~60』『システム英熟語=50~65』『キクジュクBasic=45~55、Super=55~65』です。キクジュクBasicは収録語数687ですが、日東駒専・地方国公立あたりにはコスパの良い一冊になっていると思います。

 なお、個人的には『DUO3.0』もオススメです。DUO3.0の熟語レベルは「50~60+α(見出し語)」となっており、単語と熟語を一冊にまとめた圧倒的な利点から現役生には特にオススメできます。

熟語暗記の問題と解決策

「熟語は単語と違って覚えにくい」と感じている人は少なくないと思います。熟語は視覚情報からの記憶に依存すると、どうしても“似たもの”という認識が抜けず上手に整理できません。だからこその文章と共に覚える「速読英熟語」形式だったわけですが、速読英単語以上に長文に慣れていないと使いこなせない内容になってしまっていました。そこで熟語の暗記は『英作文と英会話』に求めるという新たな視点を提供しておきます。受動的な記憶ではなく、能動的な記憶がきっと熟語には適しています

 例えば、「go on、go off 、go for、go in」など「動詞+前置詞」から成るものは前置詞によってわずかにニュアンスを変えています。ネイティブは動詞と前置詞のコアイメージを正確に持っているために簡単に使い分けられますが、私たちはそのようなニュアンスの変化が前置詞によって生じる理由を理解できていません(コアイメージがないから)。理解できていないものは重要ともわからず、重要とも思わないものは記憶に残らなくて当然です。ちなみに単語の場合はこうした問題が少ない。

 つまり、前置詞を含む複合語(熟語)のコアイメージの形成にはニュアンスの違いにまで配慮する視点が必要であり、そのニュアンスの違いを実感できる行為が英作文と英会話による発信行為なのです。大学受験なら英作文対策も行いますから、その過程で熟語表現を意識的に組み込むこと。これによって一気に熟語が覚えやすくなる(コアイメージが形成されていく)期待が持てます。やはり言語学習はアウトプットを意識してこそです。

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