読解のための上級英文法—英文を深く読むための大学生・社会人向け文法書【レビュー】

タイトル読解のための上級英文法
出版社研究社
出版年・価格2023/12/25 2090円
著者田上 芳彦
目的・分類大学生・一般向け英文解釈
問題・ページ数
(完成日数)
256ページ
総合評価
対象・到達レベル
(偏差値目安)
日常学習
(ALL)
教科書基礎
(40~45)
教科書標準
(45~50)
入試基礎
(50~55)
入試標準
(55~65)
入試発展
(65~70)
※[入試基礎=日東駒専・共通テスト・地方国公立] [入試標準=MARCH・標準~上位国公立(地方医学部含む)] [入試発展=早慶・旧帝大・医学部・一橋・東工大(科学大)]

対象・到達レベル

・英語を得点源にしたい難関大学受験生、英語を教える大人、高校英文法を補完したい人

・洋書を深くまで理解したい、海外記事や論文を読みこなしたい人

・適正対象レベルはTOEIC900以上、英検1級、英語上級者を自負できる人

※本書のような上級文法を言語学的な側面としてさらっと読んで楽しめる人なら良いのですが、内容理解に固執すると文法の沼に落ちる可能性がある点は注意してください。

 本書は大学受験に必須の文法事項というより、高校英文法では足りない英文読解をさらに緻密に補完するための文法書になっています。強いて挙げるなら、早慶の一部や外大のような英語のレベルが非常に高い試験において、全文の意味をより正確に捉えられるようになるものです。

本書の構成―256ページ

目次の一部:人間以外を受けるShe、文頭のrather than、名詞と前置詞の分離、同族目的語、関係代名詞の後が一見完全文、文頭の関係代名詞など

[第1章]時制・助動詞・仮定法[第2章]文型・受動態・動詞[第3章]不定詞・動名詞[第4章]分詞[第5章]比較[第6章]関係詞[第7章]節・接続詞[第8章]名詞・代名詞[第9章]形容詞・副詞[第10章]否定関連表現[第11章]前置詞[第12章]イディオムなど慣用表現

なかなか市販されない大学生・社会人向けの文法書

 本書はかつて出版された同著『読むための英文法』を増補改訂したものになっています。今では手に入らないほど人気があったとも言えますが、本書の内容がアカデミックな大学英語とも言えるものだったため、あまり増版されずに絶版となってしまったとも言えます。今回の増補改訂を待ちわびた人は多かったようです。

 まず、文法書は高校英文法として『EVERGREEN』などアカデミック向けのものが充実していますが、上級レベルに絞った文法書は数がありません。特に現代受験英語はかつての細かな文法知識や論理パズルのような難解な文章は出題されなくなりましたから、いまだにそれらの文章を読み解くために『英文標準問題精講』といった90年代に出版された英文解釈を引っ張り出してくることがしばしばあります。

 そうした過去の名著には、名著として語り継がれるだけの優れた点は確かにあります。しかし、ネイティブチェックが疎かだったり、あまりに突飛な和訳だったり、現代の事情ではむしろ悪影響になりかねないものもあります。当時は参考書が少なく、狭い選択肢の中で評判になったものを多くの人が採用せざるを得なかったのです。

細かなニュアンスを拾う文法書

 では、本書はというと、上級とは謳いながらも難解なものが並べられているわけではなく、英文読解の際についつい素通りしてしまう箇所を解説するものとなっています。大学の入試問題を例に挙げていることもあって、全体的にとても読みやすい。身になるかどうかはさておき、読みやすさだけで言えば、英語初級者でも触れられるほどです。

 本書の長所は一般に流通する解説を超えて、より緻密な理解を目指す内容に仕上がっている点にあります。例えば、以下の準補語に関する解説を引用しておきます。

(1) He was tired.

(2)He came home tired.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(2)は,homeは副詞ですから補語にはなりません。後にあるtiredは,主語のHeを説明しているという点では(1)と同じなので「補語」と呼びたいところですが,(1)と決定的に違うのは,このtiredの部分がなくてもHe came home.だけで文が成り立つことです。つまり(1)のtiredと比べると文の中での意味が軽いのです。

田上芳彦 読解のための上級英文法 P22-23

 こうした情報を知っているかどうかは試験の得点を左右するほどではありませんが、文章のニュアンスをより深く正確に捉えるためには必要な知識であることがわかると思います。

 以上のことから英文学科の大学生や英語教員には非常にオススメなのですが、英語中級者以上でも一読する価値はあると思います。個人的には、試験で得点することと英文を本当の意味で理解することの差が想像以上に大きいことを気づかせてくれた一冊になりました。難易度の高い英文でありがちな『なんとなく言っていることはわかる』→『こういうことが言いたいのだろう』になれるのが本書です

 

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