肘井学のゼロから英文法NEXT―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル肘井学のゼロから英文法NEXT
出版社KADOKAWA
出版年2023/2/17
著者肘井 学
目的高校英文法
分量240ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・中学英文法の復習をしつつ高校英文法の基礎を押さえたい人
・高校偏差値60未満、英語が得意ではない人
・ゼロから英文法(無印)を終えた人
・中学生の先取り

【到達】
・ゼロから英文法(無印)と合わせて高校英文法の基礎を網羅できる
・全統模試偏差値55~60まで

 本書は肘井学先生の『ゼロから英文法』の続編にあたる高校英文法の参考書です。当サイトでは大人の学び直しにおいて「中学英文法」は高校に後回しにできると述べているのですが、それは高校英文法の縮小版が中学英文法であり、高校英文法を学んでしまえば自動的に中学英文法も網羅できるからです。英語の学び直しを一から考えるなら、中学英文法の復習もできる高校英文法入門レベルから取り組むのが最も効率が良い。

 高校英文法入門レベルの参考書と言うと、最も有名なのは『大岩のいちばんはじめの英文法【超基礎文法編】』です。こちらは講義調で懇切丁寧に教えてくれる参考書として高い評価を得ています。しかし、今は出版年が古くなり、新課程対応版も出版されていません。現在、大岩先生の文法書は『中学英語を〈もう一度〉はじめからていねいに』や『高校とってもやさしい英文法 3訂版』が目立ったところとしてあります。英文法に関しては古いから悪いということはあまりなく、講義調の参考書もそれはそれで類書との棲み分けができている印象です。

大岩先生の文法書なら『高校とってもやさしい英文法』が個人的にオススメです。どちらかと言うと問題集に寄った文法書なのですが、問題を解きながら軽快に文法を学べるので現役生にも英語初心者の大人にも使いやすくなっています。さらに学研プラスから出版されている『中学国語文法』と併用することで、日本語と英語の文法を対比させながら理解を深めることもできます。英文法習得には日本語文法も大切。

 一方、大岩先生の講義調とは対照的に、『ゼロから英文法』シリーズはわかりやすく整理された入門書として注目を集めました。もともと『読解のための英文法[必修編]』が英文解釈の最初の一冊として覇権を握っていた時期があり、その流れから同じ著者の『ゼロから英文法』が注目を集めたと認識しています。講義形式の冗長さを感じる人は肘井先生の参考書が合うと思います。『ゼロから英文法』は高校生が一から英文法を学び直せるように中学英文法の復習も備えており、本書はその続編として高校英文法の発展事項を扱っています。

講義調の参考書は、長い文章を読む割に“わかった気分”になるだけで正しく実力になっていない懸念があります。導入として楽しく学ぶ目的ならありですが、それなら今の時代は授業に振り切ってしまった方がより良いと思っています。また、講義調の長い文章を読むなら、明確に入試基礎以上のレベルを含む一般的な文法書や関先生の『真・英文法大全』に注力した方が講義の意義も見出しやすいでしょう。

本書の構成

全10章58講 ※229の例文音声が付属、巻末に例文一覧あり

第1章 接続詞
第2章 名詞・冠詞
第3章 代名詞
第4章 形容詞
第5章 副詞
第6章 前置詞
第7章 否定・疑問
第8章 倒置・強調
第9章 動詞の語法
第10章 形容詞・副詞・名詞の語法

 まず、本書最大の利点と言っても良いところは、各章のはじめにその章で用いられる文法用語の説明があることです。かねてより勉強の基礎は国語力と述べている通り、文章で用いられる用語(言葉)を最初にしっかりと意識づけさせている点は非常に高く評価できます。特に高校英文法の発展では見慣れない文法用語も頻出するため、この配慮ひとつで3割増しで理解しやすくなっています。

【相関接続詞】
等位接続の中でも、ある表現と相関して使う表現のこと。both A and B「AとB両方」、not A but B「AではなくてB」、either A or B「AかBか」のような表現を指します。
肘井学のゼロから英文法NEXT P10より引用

 次に、一般的な文法書との比較では、本書NEXTまで含むとほとんど遜色がなくなります。『ゼロから英文法』の無印はだいたい高校英文法の6~7割の網羅度だったので『EVERGREEN』や『コーパス・クラウン総合英語』など本格的な高校英文法への移行を意識する必要がありましたが、本書の出版によって入試に必要な論点を手早く押さえることができます。ただし、代不定詞、代動詞などの難関大向けの論点がそもそもなかったり、発展事項の解説が不足気味だったり、語法に関しては重要なものを押さえているだけなので、基本的に難関大志望には推奨できません。本書のメインターゲットは地方国公立や中堅私大です。

もちろん、本書のあとに追加すれば良いだけの話ですが、難関大志望ならある程度高い国語力を備えたあと、教科書や学校配布の文法書に正しく適応した方が時間効率は良いでしょう。どのみち難関大の入試問題を解けるだけの国語力は備えなければなりませんからね。入門書から段階的に積み重ねる方針はじっくりと取り組める時間がある人に限られます。

 最後に、例文音声が極めて使いやすい。特に入門に位置づけられる本書に、使いやすい形で収録されている意義は大きい。例文音声は文法の論点を思い出しながら、英作文への応用や返り読みをしない音読訓練として非常に有用です。復習に際しても、例文を音読しながら「ああ、これはあの文法に関する例文だ」と思い出せるなら身についている証拠になります。一般的な文法書にも例文音声は備わっていますが、一覧になっているものは意外とありません。英文解釈にしてもそうですが、例文が一覧になっているものを優先して選びましょう。

肘井先生の参考書の印象

 あくまで個人的な所感ですが、肘井先生の参考書には冗長的な解説が全くと言っていいほどありません。レイアウトの見やすさと必要最小限の解説も読者に“簡単さ”を印象づけ、さらには頭の中が勝手に整理される感覚もあります。引き算の美学というか、スッキリと体系化された知識に自分が重なるからかもしれません。

 今の時代、youtubeのショート動画が流行ってしまうことからも、多くの現役生は文章を読むことに抵抗があるでしょう。長文というだけで反射的に忌避してしまう人はいるはずです。いつの時代も受験の上位層は皆、文章を正しく読める人ばかりなのですが、そこから成績が落ちていくにつれて文章を正しく読めない人が増えていきます。勉強の基礎は国語力。成績が伸びない人はどこかで文章を正しく読めないまま進んでいます。

 言ってみれば、肘井先生の参考書は“イマドキ”なのです。これは関先生の系譜かもしれません。肘井先生は参考書執筆にあたり関先生に多くのアドバイスをもらっていたそうです。今の子供たちは冗長さを感じ取る速度が一昔前よりも格段に速くなっていますから、その子供たちに受け入れられる参考書が本書シリーズだったり、大ヒットした『読解のための英文法』なのだろうと推測します。もちろん、肘井先生の思考形態、あるいは性格的にそうである線も否定しませんが、いずれにしても肘井先生の参考書を読むと、そんなイマドキの現役生の特徴をよく掴んでいるなぁと感じます。

併用する他の参考書次第で印象も有用性も大きく変わるものですが、大人からすると肘井先生の参考書は少々味気なく感じると思います。なので、大人の学び直しの場合、英語初心者でもなければ、文法なら関先生の「真・英文法大全」、あるいは佐藤先生の『SKYWARD総合英語』がオススメです。

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