数学 入門問題精講[改訂版]―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル入門問題精講[改訂版] 数学IA 数学IIB 数学IIIC
出版社旺文社
出版年2022年~
著者池田 洋介
目的高校数学の入門
分量数学IA(359ページ)、数学IIB(391ページ)、数学IIIC(446ページ)
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・教科書で理解できなかった人
・高校数学の学び直しを考える大人
・数学が苦手だった人

【到達】
・高校数学の教科書レベルの基礎計算と典型問題を網羅できる
・全統模試偏差値50~55くらいまで

 本書は2022年4月から変更された学習指導要領に対応した『入門問題精講』になります。2022年よりも古い入門問題精講と比べると中身は9割同じですが、数学IAには新たにデータの分析、数学IIBには統計的な推測、数学IIICには数学Bから移行したベクトルの章が加わっています。それにより数学IAは80ページ、数学IIBは20ページ、数学IIICは50ページほど増えています。大人の学び直しなら古い方でも問題ありません。

 以前にも当サイトで入門・基礎問題精講を取り上げていましたが、2024年にようやく数学IIICの改訂版が発売されて揃ったため、改めて本書の受験勉強における位置づけをまとめようと思って取り上げることにしました。特に理系志望にとって関門となる「数学IIIC」の難しさを緩和する参考書として本書は最有力候補です。

教科書との比較、代替としての価値

 以前に取り上げた数研出版の教科書『NEXT』シリーズは教科書にして解説は丁寧な方ですが、一般的な教科書は授業によって補完される位置づけにもあるため、教科書単体で評価すると解説は簡素です。本書のように読者に伝えようとする講義調の解説とは異なります。教科書は全体的に平坦な解説と言いますか、何がどれほど重要なのかわかりにくいのは事実です。教科書の硬質な文章は大人には受けが良いと思いますが、現役生には以下のように一つずつ気になるところを確認しながら進む方が使いやすいと感じる人は多いでしょう

勘違いしないでほしいのは, tanという記号が与えてくれるのは「値を計算する」方法ではなく, 「計算できない値をとりあえず書き表しておく」方法だということです. これは, 「2乗して13になる正の数」を√13と表すのとまったく同じ理屈です. √13の具体的な値は何かと問われても, ほとんどの人は答えに困るでしょうが, その代わりに私たちはルートの計算規則を知り, このような数でも普通の数と同じように扱っていくことができます. 「三角比」についても同じように, 私たちは値のわからないものを記号で表し, それらを値のわからないまま処理することを学んでいこうと考えているのです.

数学IA 入門問題精講 P106より引用

 本書の問題と解説は“大学入試”を想定した入門レベルであるのに対して、基本的に教科書は“学習指導要領”に基づく高校数学を解説したものです。教科書の代替として本書のみに頼っても良いか?というと、大学入試を想定するなら“あり”です。ただ、理想は教科書の行間を埋める参考書として用いることです。次に述べるように、数学が苦手な人ほどできるだけ多くの数学的な文章に触れることが大切です。まずは教科書で高校数学全体を概観しつつ、本書を使って内容を詳しく掘り下げるという方法をオススメします。

ちなみに本書の次にある『基礎問題精講』シリーズは、よりチャート式に近いレイアウトと解説になっています。入門問題精講は文理問わずに入門書として推奨できますが、基礎問題精講は文系ならまだしも、難関大志望の理系には網羅性が心許ないので現時点では推奨しません。

チャート式の前提知識として

 本書は教科書レベルを固めるのに使い勝手が良いので、本格的な解法暗記と問題演習前に用いるのがオススメです。高校1年生から先取りで使用するにもちょうど良い難易度にもなっていますし、高校数学の下地として理想的な内容と言えます。チャート式で最も易しい白チャートと比べても本書の方が解説は丁寧なので、チャート式の解説で理解が甘くなる問題も未然に防げます。

 もっとも現役生なら学校の授業によっても賄えるでしょうから、最初から白チャートでも悪い選択では全くありません。『1対1対応の演習』で有名な東京出版の参考書なら、本書のあとには『入試数学の基礎徹底』がオススメ。いずれにしても、前提知識を備えたらどこかで大量の問題は解きます。問題を解く数が少ないのは時間制限のある試験対策として不安が大きい。なお、本書だけでも分量は多いので、導入に用いるのにしても時期はそれなりに選びます。難しい数学IIICだけ用いるなど工夫しても良いでしょう。

問題の難易度からして『入門問題精講』→『黄チャート』のルートが最もバランスが良いと思います。青も可能ですが、入門問題精講から始める人には重い気がします。白は難易度の重複部分が目立つので、本書の用語解説やコラムだけ拾う使い方がオススメ。

数学的な国語力を向上させるには

 物事の深い理解は応用力や長期的な記憶定着に大きく役立ちますが、数学の場合、その他の科目に比べて言語的な理解を求めにくく、見慣れない数字や記号によっても理解を阻まれているような感覚があると思います。私たちにとっての日本語は様々な文脈を通じて有機的な概念形成が行われる、例えば日本語の単語や文法は環境によって訂正が繰り返されますよね。それに対して、数字や記号は外国語のように理解できないまま放置されやすい事情があります。

 こうした問題の解決策の一つとしてオススメしたいのは、数学もまた国語や英語のような言語的理解を求めていくことです。例えば、私たちが英語の勉強をする際、訳出によって英語と日本語の対応を学びます。これと同様に、数学も日本語に対応させてしまえば良い。つまり、本書のような講義調の参考書を利用して「〇〇とは、△△である」という数学言語の日本語解説にたくさん触れるのです。以前に取り上げた『真解法への道』もそうですが、講義調の参考書最大の利点は数学を国語のように捉えられることかもしれません。

数学の本質を理解する系の参考書も有用ですが、入門段階では取っつきにくいと思われます。入門段階なら本書のように問題を解きながら、用語をはじめとする基礎的な解説に触れる方が効果的です。他方で、数学への関心を高める“教養としての数学書”なら段階を問わずオススメです。

 例えば、大学数学では一冊の参考書を読んでもわからない場面が圧倒的に増えるため、自ずと複数の参考書から一つの概念に多角的にアプローチしなければならなくなります。数学は行間を埋められるかどうか、すなわち高校数学でも本書だけでは理解が浅いと思ったら、また別の入門書に手を伸ばします。今ならAIに質問しまくるでも良い。そうやって対応する日本語が蓄積していくと、英語が日本語のように理解できると同じで数学のコアを捉えられるようになっていくはずです。これは単に解説を読んで理解するという意識的な話だけではなく、似た文章を浴びることによって深まる無意識的な理解の部分。

言語的なアプローチとは異なり、問題を解きまくることで理解を深めることもできます。こちらの方が性に合っている人は(勝手なことを言えば)数学的素養がある典型的な理系志望という印象。このタイプの人にとっては本書よりも自分のレベルに合った『チャート式』や『新数学スタンダード演習』などがオススメです。

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