HR高等学院―踏み出す勇気と面白がる力を育む。

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名称HR高等学院
運営会社RePlayce社
開校日2025年4月
区分通信制高校サポート校
拠点・オンライン
・代々木キャンパス(東京都渋谷区代々木3-1-1 YKD代々木ビル3階)
・成城学園前/仙川キャンパス(東京都調布市入間町1-44)
提携校・鹿島山北高等学校
・鹿島学園高等学校

次世代の通信制サポート校

 まず、この記事はHR高等学院からお願いされたわけでも何でもなく、こちらの記事『AIが知識の価値を変える―大学の再考』から次世代の教育を再考していた中で偶然見つけた通信制サポート校が個人的な考えに近いことから勝手に取り上げています。記事作成の意義を挙げるなら、子供の進路に悩む親に向けた選択肢の紹介です。

 HR高等学院は2025年4月に開校したばかりの新しい通信制サポート校です。NTTドコモからスピンアウトし、2024年4月に設立されたEdtechスタートアップRePlayce社が創設。カシマ教育グループと業務提携し学校運営を行っています。通信制サポート校とは、通信制高校とは別の運営が通信制高校に通う生徒をサポートする学校のこと。通信制サポート校だけでは高卒資格が取れないため、基本的に通信制高校と同時に入学して通信制高校のカリキュラムに取り組みながらサポート校のサービスも受ける形になります。

学費は通信制高校とサポート校で二重に発生します。無償化された公立高校に比べると当然高いですが、通信制高校の学費は全日制に比べて格安なので、二重でも全日制私立高校と同じくらいになります(年間約50~100万円)。

 一般的に通信制高校は全日制の高校に比べると卒業までに必要なカリキュラムは少ないのですが、卒業率は全日制がほぼ100%であるのに対して約70%前後で推移しています。これは通信制高校が生徒の自己管理能力に大きく依存した形態であるため、レポート提出の遅れや単位認定試験の不合格によって留年や退学に至るケースが少なくないからです。そこで卒業まで生徒を手厚くサポートする通信制サポート校が存在しているわけです。

かつては通信制高校に通う生徒と言えば不登校をはじめ、複雑な背景を抱えているといった印象を持っている人も多かったかもしれません。しかし、現在は通信制サポート校が徐々に増加し、サポート校による先進的なサービスによって前時代的な高校とは距離を置ける利点、延いては積極的に将来を見据えた子供たちで溢れる場になりつつあります。全日制に比べて労力の小さな通信制高校を利用し、サポート校で有意義な時間を過ごすという人生戦略も決して否定できなくなっているのです。

探究×越境×共創

 HR高等学院の魅力的な点は、一言で言えば「社会との接続」を意識している点です。AI時代に大学が提供する知識の価値が下がり、産学連携で社会で活躍できる人材育成などが行われなければならない現代において、高校生の段階から実践的な知識や体験を積める環境は魅力的と言わざるを得ません。HR高等学院が設けている5つの領域「ビジネス&アントレプレナーシップ、テクノロジー、デザイン、ソーシャル、グローバルな学び」は全て一般的な高校ではなかなか体験できないサービスになっています。現在進行形で社会的に活躍している大人たちが講師になり、かつ最新の知見が活用された学習は大人であっても受講したいところです。

テクノロジーだけでも生成AI/ロボティクス/宇宙テクノロジー/プログラミング/自動運転技術/脳科学/ビッグデータ/VR・AR/ブロックチェーンなどがワークショップ形式で学習できます。

 また、クラス制度・担任制によって孤独にさせない配慮があり、伴走支援として2週間に一度の対話セッションは学生の自己理解と将来のキャリア形成を意識できるとても良い機会になると思います。一般的な高校はどうしても閉鎖的な環境で社会に開かれておらず、民間経験の少ない先生によるアドバイスも限定的にならざるを得ません。地元国公立至上主義も未だに残っています。ましてや学校に馴染めず、我慢しながら3年間を過ごすとなっては貴重な時期を無駄にしてしまう恐れもあります。学校は行って当たり前で当たりも外れもないとは考えにくく、環境的なリスクは避けたいのが本音です。

 愛情を与えられて育った子供が大人になって揺るがない自己肯定感を保持するように、10代の多感な時期に真剣に自分のことを考えてサポートしてくれる大人たちに囲まれる環境はきっと一生涯の安心に繋がります。優秀な大人たちなら心強い。HR高等学院のコンセプトには個人的に文句がありません。本当にホームページにあるような学習サービスが提供されるなら非常に満足度の高い学校になるでしょう。

現在、大学は総合型選抜(旧AO入試)が増えてきています。東北大学では2050年までに総合型選抜の比率を100%に引き上げると発表したばかりです。総合型選抜は高校時代の経験がアピールポイントになりますから、HR高等学院のユニークなカリキュラムは有利に働くかもしれません。

果たして高校生たちにできるのか

 目指す理想が高い学校なのはよくわかります。例えば、プログリットと共同開発する英語学習カリキュラムはHR高等学院での3年間を経て、海外の大学や総合型選抜での難関大学入試などがキャリア接続として意識されています。総合型選抜では英語と特別な体験が有利に働きますから、HR高等学院が考える戦略は理にかなっています。今後の総合型選抜の拡大や生徒の多様化などを考えていくと、通信制サポート校が同じ年間100万円を必要とする学習塾や予備校に代わる場所として中流層から支持を集める未来もあるかもしれません

 というのも、消滅可能自治体が語られるようになったことからも、よりいっそう地方には優秀な人材が集まらなくなっているからです。教員採用試験の倍率低下からも今は優れた人材が先生になりたがりません。地方の高校によっては完全に時代遅れの環境で3年間を過ごすこともあり、地元に有力な就職先もなければ、どこかで将来を見据えたキャリア形成や勉強の意義などを考えないと苦しくなります。その点で通信制高校+通信制サポート校は決して悪い選択ではありません。

HR高等学院だからこそ学びが深められる分野に興味を持っている人なら良い選択です。

 しかし、広く浅い経験で終わるくらいなら現在進行形で活躍する大人たちの講義に耳を傾ける程度に留め、従来の地味な勉強に振り切った方が良いような気がしなくもありません。結局、基礎学力が足りていないと深い思考に至らず、何も成せないのではないかと思ってしまうのです。HR高等学院の日常的な学習がどのようになるのかホームページからは具体的に想像できず、並べられている数々の学習コンテンツは机上の空論に陥らないか率直に不安です。

 言い換えると、いかに従来の地味な勉強に意味を与えて楽しく行えるかが高校生にとってはまだまだ重要であり、国語や数学といった科目より横文字だらけの学びを優先したいとは思えないのです。個人的な理想を言えば、社会との接続を具体的にイメージできる環境、それによって目の前の地味な勉強の意味が見出されること。ロジカルシンキングを学ぶのではなく、国語や数学から自然に論理的思考が導かれる流れが理想です。もっともこれは高校課程の勉強に対しての評価が個人的には“高め”であることに起因していて、義務教育を終えたのだから社会的な実践力メインの教育サービスがあっても良いのはそうかもしれません。直接的に役に立たない勉強より、直接的に役に立つ勉強で思考力を伸ばした方が良いと言われてしまうと反論に苦しくなるのは事実です。前者にはやる気が出ないが、後者ならやる気が出ると言うなら応援する他ありません。

これはホームページを眺めただけの表面的な批判に過ぎず、また提携する通信制高校が基礎学力の面を担うでしょうからその不安も杞憂かもしれません。全体で見たら少数である通信制高校+サポート校に通う生徒に、質の高い教育サービスを提供する社会的な意義に関しては大いに感じています。さらに言うと、こうした教育サービスこそがAI時代に求められる産学連携、すなわち地元企業と高校や大学が連携する人材育成の形でもあるでしょう。ただ、その中での懸念というのは大人の学び直しを考える人ならわかる通り、仕事に役に立つ知識よりも役に立つか分からなかった学生時代の勉強(基礎学力)の大切さです。

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