タイトル | 改訂版 視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録 | |||||||||||
出版社 | 数研出版 | |||||||||||
出版年 | 2024/2/13 | |||||||||||
著者 | 数研出版編集部 | |||||||||||
目的 | 高校生物資料集 | |||||||||||
分量 | 320ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・高校生物の資料を探している人
・高校生物を学び直したい大人
・難関大の生物系学部学科を志望している人
【到達】
・高校生物の内容を写真と共に詳細に理解できる
本書は数学のチャート式でお馴染みの数研出版から出版されている生物の資料集です。豊富なフルカラーの写真と共に詳しく解説されているため、現役生をはじめ、大人の学び直しにもうってつけの内容になっています。しかもこの充実度で約1000円という値段は破格です。歴史の史料集にしてもそうですが、教科書の補助教材として出版されているため、とてつもなく良心的な値段設定になっています。
教科書に準拠しながら、教科書では補えなかった深い内容を図解しているため、現役生なら特に難関大の生物系学部学科を受験予定の人には非常にオススメです。ただ、直接的な試験対策はあまり含んでいないので、単純に生物が大好きな人の知的好奇心を埋めてくれる参考書、あるいは試験対策としての応用を考えながら取り組む参考書に位置づけられます。逆に生物は試験だけほどほどに頑張ると言う人には必須ではありません。基本的には教科書で十分、追加(代替)するとしても試験対策も含む『チャート式生物』の方が優先度は高くなります。
他方で、大人の学び直しには必須と言っても過言ではないかもしれません。『チャート式生物』よりも学びとしての性質が強調されているため、教科書ではどうしても理解が深まらない部分をちょうど良く埋めてくれます。大人の高校生物の導入としては、もしかしたら教科書よりも優先したいかもしれません。
本書の構成と使い方
序章 生物実験の基本
第1編 細胞と分子
第2編 代謝
第3編 遺伝情報の発現
第4編 生殖・発生
第5編 体内環境の維持
第6編 生物の環境応答
第7編 生態と環境
第8編 生物の進化と系統
Column 生物に関連した興味深い話題
Pioneer 最先端の研究を行っている研究所や研究室を紹介
Zoom up 少しレベルの高い内容や細かい知識
Point 注意したいことや覚えておくと良いことの整理
QRコードから映像・アニメーションコンテンツを視聴可能
本書の試験対策としての可能性について触れると、まずフルカラーで図解されている上に映像・アニメーションコンテンツの視聴も可能なので、実験手順や結果、生物の細胞、組織など実際の試験問題で示されたときの対応が早くなる利点はあります。植物や動物の特定部位の名称を答えさせる問題は問題集だけでも足りると言えば足りますが、本書を受験勉強の動線に組み込んでおけば、写真や図、グラフ、最新の研究に関わる情報までを広範囲に押さえられるため、特に難関大を受験する層には理想的な知識の土台になります。既視感を持って対応できるということ。
また、本書のような資料集による土台があれば、概念の視覚的理解も進みやすく、記憶の定着にも好影響を与えるはずです。細胞分裂や遺伝子の発見、光合成の反応経路など文章だけではイメージしにくいですし、写真や図があったとしても問題集にあるような白黒では心許ないでしょう。教科書は濃密な文章が第一にあって、写真や図、グラフもできる限り詰め込まれていますが、高校生物全体の情報量を考えると本書によって補完した方がより良いのは明らかです。
人間はよくわからないときに“なんとなくわかるもの”だけを拾い上げて理解できたフリをしますから、理解しているという感覚を疑わないと勉強は始まらないところがあります。くどいくらいに一つ一つの用語を確認し、できたらイメージ(写真や図、グラフなど)も加えておきたいのです。そうやって理解の感覚を充足させていくと、文章を理解する速度も向上します。理解の速度が上がったときには、高校生が小学生向けの文章を読むような簡単さを実感し、科目全体の負荷が大幅に軽減されます。何を言っているのかよくわからないから、言っていることを深く理解しているの違いは当然ながら非常に大きい。情報の質には雲泥の差があります。その点で本書は教科書準拠の構成になっていますから、教科書の冒頭から登場する用語や実験をひとつずつ深めていける最高の副教材です。
基本に立ち返ることの大切さ
本書を手に取れば、その充実度に舌を巻くでしょう。様々な参考書が出版されている中で教科書然り、本書のような資料集の価値は無視できません。受験参考書の数からわかる通り、大学受験は今でも巨大市場です。学習塾や予備校のマーケティング、合格の方程式に乗せられやすい環境ですが、本当は各科目への知的好奇心を膨らませ、教科書と本書(資料集)、傍用問題集だけでも多くの大学に合格できます。今ならAIによるサポートも十分ですから。
加えて共通テストの流れからしても、これさえやっておけば良いという短絡的な思考を助長しかねない方針の危険性は高まりました。いかに応用力を備えるか。これは先生と生徒、学習塾と生徒のようなある種の主従関係における勉強では意味がなく、生徒主導で様々な疑問点を持ちながら多角的に勉強する姿勢が重要になっています。言い換えれば、指示されたものに取り組むでは限界が早く、義務感という足枷を引きずりながら勉強していたら問題と答えの1対1対応に囚われるまでは必然なのです。もし仮にそれでうまくいったとしても、応用力のなさに苦労する場面が早晩訪れるでしょう。
つまり、いきなり受験勉強に取り掛かるよりも、勉強が苦手な人ほど勉強以前に科目への興味関心を構築し、さらに知識を拡張する道筋を本書によって用意しておくことで、その興味関心を余すことなく成長に繋げることができるはずです。ジムに行こうと思い立っても、大雨が降っていたらやる気が削がれますよね。受験に特化した参考書は山ほどあれど、応用力を高められる学びの土台を構築する、成長の機会損失が起こらないようにする参考書として本書は理想的かもしれません。実際、本書を楽しく通読できる人には受験勉強の心配をほとんど感じないと思います。