速読英文法―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル速読英文法
出版社Z会
出版年2025/7/29
著者宮下 卓也
目的高校英文法
分量504ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・速読英単語形式で文法を復習したい人
・共通テストレベルの英単語を押さえている人

【到達】
・高校英文法の重要事項を復習できる

 本書は2025年7月に出版されたばかりの速読英単語形式の文法書になります。個人的に速読英単語は高く評価している単語帳なので、本書の発売は非常に待ち遠しかったです。が、積極的に薦めたいとは思えず、使い方次第では利用価値があるといった評価になりました。文法学習目的で利用する人にとっては低評価ですが、文法学習の“復習”としてなら利用価値があります。

 本書の解説は速読英単語シリーズに付属する「英文解説」を少し詳しくした程度なので、高校英文法を余すことなく理解したいと考える人には不足感が目立ちます。他方で関先生の『真・英文法大全』などを通読し、文法問題集を終えたくらいの人には適切な英文と共に文法の重要事項を総チェックできるコンパクトな参考書として受け入れられると思います。ただ、解説そのものはわかりやすく整理されているものの、復習の論点が疎らな上に、この形式で復習する必要性もいまひとつ掴めませんでした。悪く言えば、速読英単語のブランドに乗っただけと解釈されかねない部分があります。

 当サイトの英語学習の順序として「単語」は後半に位置づけていますから、『速読英単語』はこれ以上ないほど理想的な単語帳です。「発音(音読)→文法→英文解釈」と進み、短い英文が読めるようになった段階(本格的な長文読解前)で適切な英文と共に単語を覚えられるからです。その点で本書は本格的な長文読解前の文法復習として決して悪くありませんが、文法書で復習すれば事足りる(というよりその方が安心である)ために「可もなく不可もない、必ずしも必要ない」という評価を超えられません。例えば、大学偏差値55までの英文(過去問)を取り上げ、そこで必要な文法を重要事項として完璧に押さえられるとしたらわかりやすく評価できたと思います。

本書のレイアウトは速読英単語[必修編]第8版の高い完成度が引き継がれています。

コンパクトな英文解釈としてなら

 本書の文法事項の解説は理解というより“整理”が中心です。一般的な文法書のように理解させるためではなく、すでにわかっている人が「そういえば、こうだった」と思い出す程度のもの。これを速読英単語らしい英文を通じて確認していく必要があるのか、というのが個人的な疑問点でした。

 しかし、本書には英文解釈にあるSV表記が添えられ、語句や文法も余すことなく解説されているため、英文解釈を兼ねた多読参考書と位置づけるなら可能性を見出せます。その解説がほとんど羅列とツッコミたくなる部分も、すでにわかっている人の音読教材と考えたら逆に理想的かもしれません。英文解釈は最終的に、今までの例文から文構造のパターンを思い出しながら音読を行います。そのため、例文一覧と音声が付属する参考書を高く評価していて、その点で本書は英文解釈の例文よりも長い英文で、かつ優れたレイアウトからも円滑に音読が行えると捉え直したら評価できます。

 詰まるところ、本書を含めた速読英単語シリーズは“多読参考書”として捉えたらどれも悪くありません。『速読英熟語』だけはあまり評価していませんが、本書は共通テストのレベル感で文法と解釈を復習できる点が唯一無二です。英文解釈の基礎を終えた人が本書で繰り返し音読すれば、共通テストの英文を流暢に読めるだけの力に繋がります。当サイトの学習順序なら「発音→文法→英文解釈→単語→(本書)→長文読解」と組み込めます。本格的な長文読解前に適した長さの英文に、単語ではなく文法確認としての一冊を加えたと考えたら確かに納得のコンセプトかもしれません。

現状、文法の重要事項の基準が不明瞭で中途半端さを感じるものの、本書が英文解釈の段階をコンパクトに担い、次に述べる発音までも意識されていたら大化けすると思います。純粋に文法を学ぶために、復習だったとしても、やはり本書には頼らないでしょう。なので文法解説をおまけ程度にして、発音と英文解釈を兼ねた多読参考書まで振り切れたら高評価でした。

発音も意識できる多読参考書に期待したい

 速読英単語は英文をゆっくりでも読めるレベルに到達したあとから、流暢に読んで聴けて音読できるまでの段階的な学習が一冊に詰まっているという極めてハイスペックな単語帳です。最新版では見出し語全てに例文と例文音声がついたため、英文をまだ読めないとしても利用可能になりました。英文のほとんどが過去問。オリジナル英文はどうしても網羅できない単語があるときにのみ追加。偏差値65を超える大学(東京一工や早慶)を除けば、必修編を完璧にするだけで十分。その他のTipsも地味に役に立ちます。

 ただ、個人的には発音の要素も導入してほしいと思っています。当サイトでは発音学習の段階に『発音の教科書』シリーズを強く推奨するに至っていますが、それは音声学習の質を飛躍的に向上させるからです。英語特有のリンキングとリズムに関する情報を含んだ音声付属の多読参考書兼単語帳はいまだに存在しません。共通テストのリスニング比率が高くなったにもかかわらず、いまだに発音は軽視されたままのような気がして率直にもったいないのです。

 これは『教科書AIワカル』にて触れた通り、大学受験に振り切った勉強のリスクが大きくなっている現代において、特に英語に関しては実用性を意識しないと何のために勉強しているのかわからなくなります。発音に関しては試験の得点に直接的に結びつかないと思われがちですが、リスニング対策としてはもちろん、ライティングやリーディングにも役に立ちます。長期的には試験の得点を伸ばせる本質的な勉強なのです。しかも英語のような言語学習はセンスらしいセンスがそれほど必要ありません。数学や物理などに比べると、努力した分だけ確実に伸びます。※『発音の教科書』、もしくは『リスニングの教科書』だけでも取り組むと世界が変わります。

速読英単語をベースに、大学の過去問から「人文系」や「自然科学系」などに分けて集めた系統別多読参考書が発売されたら間違いなく売れます。『ACADEMIC』や『リンガメタリカ』はもう古くなってしまいましたが有名ですね。それよりも古い2003年に同じZ会から『多読英語長文』という参考書も出版されていました。こういった参考書が切実に欲しい。というのも、受験勉強の最後、多読多聴の段階に適した参考書が少ないからです。英文自体は大学の過去問などから無限に手に入れられるとしても、音声と英文解説が付属していないために使い勝手は良いとは言えません。ここに手を差し伸べてくれる出版社はZ会だろうと期待しています。

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