単語の教科書―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル単語の教科書
出版社テイエス企画
出版年2023/10/2
著者靜 哲人
目的単語の発音
分量432ページ
評価
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・発音を強く意識しながら単語を覚えたい人

【到達】
・単語の正しい発音が身につく
・日常会話で必須の単語と句動詞を覚えられる

 本書は『音読の教科書』と同じシリーズ、単語の発音に焦点を当てた参考書です。『音読の教科書』があまりに良かったので、本書も購入してみました。一般的な単語帳は「単語を覚えること」を優先して構成されていますが、本書は発音を中心に押さえている点が異なります。このコンセプトは大人向けの単語帳ではそこまで珍しくありませんが、本書ほど高い完成度を持つものはなかなかありません。

 具体的にはレイアウトの見やすさ、専門的な内容を易しく噛み砕いていること、日本語ネイティブが抱える悩みを的確に押さえた解説です。納得しながら読み進められる点も大きく、特に大人なら確かな前進を感じながら発音と単語、リスニング、音読を同時に学べる参考書として唯一無二の評価を与えるのではないかと思います。

 そして、本書は「発音と単語」です。日常会話で必須の「単語1961語+句動詞176語=2137語」を収録しています。全ての単語に独特の発音表記方法(current=クァーRウンtなど)を用いており、日本人の感覚に馴染みやすくなっています。カタカナ表記を用いることに問題がないとは言えませんが、日本語→英語の移行プロセスには有効な手段です。例えば「the=ダ」としても、カタカナの「ダ」を意識しつつ、「th」の発声解説を補完しているなら問題は最小化されます。日本人のカタカナ認識からネイティブの発音記号通りの発音へと繋がりやすくなるわけです。

私たちの言語認識は日本語に支配されているため、英語を聴いても日本語(カタカナ)に自動変換されてばかりになります。この問題を早期に解決することが英語学習の秘訣です。

本書の構成

序章 英単語学習10のポイント
第1章 英単語の発音強化のポイント36
第2章 通じる発音でマスターする英単語450
第3章 リズムでマスターする英単語1200
第4章 その他の重要ポイントでマスターする英単語300
第5章 必修句動詞170
※単語1961語+句動詞176語=2137語収録
※全ての単語に例文あり、音声も付属(単語のみ、例文のみなど複数パターンあり)
※基本的に一語一訳、補足情報(他の品詞と意味、熟語、発音の注意点など)

 単語は入試対策用とは明確に異なり、『究極の英単語Vol.1』に近い印象です。中学~高校入門レベルが中心ですが、高校基礎~標準、およびなかなか見かけない単語も一部含まれています。一方、句動詞は高校入門~基礎が中心で『キクジュクBASIC』に難易度が近くなっています。

 本書の長所は先に述べた独特の発音表記に加え、例文「It was just a minor problem.(P202より)」のように全ての例文に強弱表記がなされていることです。太字を比較的強く、それ以外は弱めに発音することでネイティブの読み方に近づくようになっています。この仕様は一般的な単語帳にありません。

母音には子音にはない難しさがあります。それは口内での接触点がないことです。自分の舌や唇がどこかに接触すれば、その感覚があります。しかし「妨害」ゼロの母音ではそれがありません。「アイウエオ」の違いは何かというと、口の開き具合や舌の盛り上がり具合の違いです。「ア~」と「エ~」を繰り返し発音してみると、「ア~」のほうが口を大きく開いているのがわかります。そこで、母音を正しく発音するには口の開き方や舌の盛り上げ方などを学び、自分の出した声を聞きながら修正する必要があります。
単語の教科書 P13より引用

 英語には日本語にはない妙な音があります。例えば、「and」の「a」は日本語の「ア」でも「エ」でもないような曖昧な音です。私たち日本人は赤ん坊の頃までは「アイウエオ」という母音にしても英語のように曖昧な音を発していましたが、大人になるにつれて「ア・イ・ウ・エ・オ」とはっきりと区別できる音を発するようになり、弊害として英語の曖昧な音を聴き取れない・発声できない状態に陥りました。なので、英語の発音を学習する際には自分の中にある「アイウエオ」を崩す意識が必要になります。発音における柔軟性の大切さです。

 また、音節の大切さも勉強になります。※本書は音節の数(1~8)によって単語が分類されています。

日本語的に「ステーキ」と発音した音声を日本語をまったく知らない英語ネイティブに聞かせて「なんという英単語を発音していると思いますか?」と尋ね、その回答を分析した研究があります。結果は steak よりも steadyとか ready とかの解答が多かったそうです。「ステーキ」というカタカナ発音 (steh-ki) には母音が2つある (すなわち2音節である)ため、2音節語である stead-y、read-y かな?などと思われてしまったのです。ある音声がある単語だと正しく判断されるためには、その単語本来の音節数のイメージ通りの音声で発音することが不可欠だ、ということがわかります。
単語の教科書 P16より引用

 ちなみに「steak」は1音節の単語です。序章にあるこうした解説だけでも日本語ネイティブの感覚や疑問を押さえながら進んでいる様子がわかるかと思います。英語の発音・アクセントに関することは英語ネイティブを先生にした方がより良いと考えたくもなりますが、本書のわかりやすさから、やはり日本人の先生による解説が日本人にはわかりやすいのかもしれないと実感します。カタカナと英語混在の発音表記の発想は日本人らしく、段階的な学習になっていますからね。

 例文の発音は難しいので後回しにしても良いのですが、本書シリーズの全てをしっかりと終えられたときには間違いなく発音は綺麗になっていると思います。シリーズ4冊あるのもありがたいことで一貫性があり、『文法語法良問500』の3つの角度(誤文訂正・整序英作文・空所補充)から文法を固めるように、発音を4つの角度から固められると考えたら理想的です。

本書シリーズの唯一の欠点を挙げると、公式サイトに訂正表(誤植)が掲載されていないところです。見つかりませんでした。誤植が全くないなら良いのですが、読者からの報告があった場合にのみ掲載したり、それ以降の刷で静かに修正されるパターンかもしれません。大学受験用の参考書なら報告も修正も迅速なのに対して、大人の学び直し向けの参考書は数年経っても第一刷のまま(実質的に誤植も放置)ということがそこそこあります。

英語学習の順序イメージ

 簡易的な図ですが、英語学習の順序を視覚化すると上記のようになります。左から始まり、単語・熟語まで全ての人が取り組み、その後は目的に応じて長文読解や口語表現に分岐するイメージです。

文法は必須なのかというと、聴覚情報による訂正が生じない日本語環境では必須と考えます。しかし、日本語環境であっても、聴覚からの情報を軸にすれば(意識的な文法学習を)限りなく省ける可能性も否定しません。

 ただ、誤解しないでほしいのは「発音」の段階は「発音」のみに取り組むわけではありません。初歩的な英文を用いて解説されることからも、最初から発音・文法・単語には少なからず触れることになります。つまり、どこに比重を置くかという話であり、正しく言うと、発音の段階は“発音に最も意識を割く段階”ということ

 最初に発音に比重を置く理由は、聴覚情報による成長機会を最大化=英語の学習効率を上げるためです。日本語環境下での英語学習は視覚情報(テキスト)に偏ってしまうため、意識して聴覚情報を取り入れないと言語の本来の性質(文字と音)からして効率が大幅に落ちます。共通テスト以前の大学入試ではリーディング偏重、かつマニアックな文法知識まで問われていましたから、文法に詳しく、読解が得意な人は多くいましたが、実際に会話ができる人はほとんどいないと指摘されていました。昔は音読の効果にも懐疑的、少なくとも受験勉強での優先順位は低いと感じている人は多かったように思います。

なお、視覚情報=テキストとしていますが、『DUO-Elements』のようなイメージも有効です。イメージはテキストよりも瞬発力があるため、瞬発力が必要な音からの理解=リスニングにおいても力を発揮します。

 次に単語ではなく、文法に取り組む理由もまた学習効率を上げる、今度は視覚情報の質を向上させるためです。品詞・構造分析しながら英文を正しく読むことができれば、単語を覚える段階で品詞・用法を意識的に押さえ、例文も有機的な捉え方(=応用可能性が高い)ができるようになります。文法学習前に単語に取り組むと、一語一訳を機械的に覚えるだけになってあまり意味がありません。言い換えると、単語帳にはたくさんの情報が詰まっています。その情報を正しい発音と文法知識によって有効活用できれば、あれだけ手軽に取り組めるものでも効果は何倍にもなります。『速読英単語』のようなハイスペック単語帳ならなおのことです。

単語帳の例文は何気ない一文のようでいて非常に役に立ちます。例えば「動詞」なら頻出表現が採用され、例文暗記によって語法の知識から英作文、会話表現にまで繋がります。音読によって音の記憶が強化されれば、覚えると言うよりも口から自然と出てくる状態にもなれます。

発音を軸にできる稀有な参考書

 学習イメージで言うところの発音の段階で「発音」を完璧にできるに越したことはありませんが、実際はその後の文法(英文解釈)や単語・熟語の学習を通じて洗練されていくものです。発音の参考書だけでは実践が足らずに難しいとも言えます。そこで本書です。

 発音だけを取り扱った参考書、発音記号が付属する参考書なら山ほどありますが、本書のように発音を中心に取り扱った「発音+単語」「発音+リスニング」「発音+音読」は珍しく、その上で本書の高い完成度まで加えると唯一無二の参考書として非常に高く評価できます。本書なら発音学習のための単語帳と言っても良いでしょう。日常会話に必須の単語が集められていることよりも、発音を強く意識した単語帳であることに意味があります

 これは英語学習の初期段階に用いても差し支えなく、以前に紹介した『普通の英単語』とは異なるベクトルで理想的な位置づけになるかもしれません。本書に収録されている単語・句動詞を“覚える”としたら現役の中学生や英語初心者にはやや重いのですが、発音学習のための単語と割り切れるなら誰であっても、将来英語を話したいなら積極的に推奨できます。少なくとも本書の(例文含む)発音表記を全ての単語帳に導入してほしい、と思うくらいに日本人には有益な情報となっています。

本書シリーズ4冊全てを英語学習の初期段階に採用しても良いと思うくらいに評価しています。大人なら特に。その後の音声利用の質が劇的に向上します。

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