世界史探究授業の実況中継―世界史を学び尽くす古き良き講義系参考書

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タイトル世界史探究授業の実況中継
出版社語学春秋社
出版年2023/10/18
著者青木 裕司
YouTubeチャンネル「青木裕司の世界史探究授業の実況中継
目的高校課程の世界史探究を学ぶ
対象現役生から大人まで
分量544ページ
評価
AIAIに時代ごとの論点や疑問点を投げかけてもらって答えてみる
レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
加筆修正の履歴

※本記事は公開以降、内容に変更はありません。

世界史探究をシリーズ4冊―約2300ページで解きほぐす

 本書は2023年に出版された新課程「世界史探究」に対応した講義系参考書になります。実況中継シリーズは懐かしさを感じる大人も多いと思います。今やどこにいてもスタディサプリによる映像授業を受けられ、YouTubeには現役の予備校講師をはじめ、有志によって制作された歴史解説の動画が溢れており、いまさら分厚い講義系参考書の文字を追うのはどうなのだろうかと疑問に思っていました。

 しかし、授業や動画による話し言葉は大枠を理解するための導入なら最高の教材になりますが、受験勉強の軸は「文章を読むこと」でなければ実力は伸びず、成績も安定しないと考えるに至っています。とは言え、教科書のような硬質な文章、かつ要点を押さえる簡潔な説明は現役生から学び直しを考える大人には味気なく、いくら必要に迫られたとしてもなかなか頭に入りません。そこで本書のような講義系参考書はそれらの中間に位置し、文章を読むことを鍛えながら、歴史の流れと疑問を解消できる理想的な参考書になり得るということで取り上げました。しかも著者の青木先生はYouTubeチャンネルで解説動画もアップしていますから、これ以上ないほどの理想的な選択肢になっています

 そして、講義系参考書によって大枠を理解するとは、等しく知識を関連づける土台でもあります。特に歴史科目のように覚えることが膨大な科目は適切に知識を整理・関連づけしないと覚えきれません。勉強が苦手な人ほど思考力を駆使しない丸暗記に陥って手も足も出ないということが起こり得ます。「A→B」をそのまま覚えるのではなく、なぜ「A」が起こったのか、なぜ「AのあとにB」が起きたのか。Bの周辺では何が起こっていたのか。そうした背景、外堀が充実するほど、問題集で触れる断片的な知識が時代ごとに正しく意味のある形で分類されていきます。その点で本書は教科書の4倍まで広げて解説していますから、難関大なら特に、中堅私大・地方国公立であっても世界史は目立った講義系参考書が少ないだけに推奨しても良いのではと考えています。

歴史は大半が文章によって説明されているため、国語力によって理解度に大きな差がつきます。歴史科目によって国語力が伸びることが逆説的な証左。また、歴史科目からの学びは「知識の整理」という視点です。人間は膨大な量の知識の記憶を求められたときにどのように変容するのか、工夫するのか。簡単に言えば、要領を学ぶ科目が歴史。ここに歴史科目特有の思考のブレイクスルーがあります。

本書の構成と解説の一例―実況中継1より

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構成・内容第0回 授業をはじめるにあたって
第1回 先史時代
第2回 古代オリエント世界とその周辺
第3回 南アジアの古代文明
第4回 中国の古代文明
第5回 南北アメリカ文明
第6回 中央ユーラシアの世界
第7回 秦・漢帝国
第8回 魏晋南北朝時代
第9回 隋・唐~五代十国時代
第10回 仏教・ヒンドゥー教の成立と南アジアの諸国家
第11回 東南アジア世界の形成と展開
第12回 イラン諸国家の興亡とイラン文明
第13回 古代ギリシアの歴史
第14回 古代ギリシアの文化・ヘレニズム文化
第15回 共和政時代のローマ
第16回 帝政ローマの時代
第17回 古代ローマの文化
第18回 キリスト教の成立と発展
第19回 アラブの大征服とイスラーム世界の成立
第20回 イスラーム諸王朝の興亡
第21回 イスラーム文化
第22回 中央アジアとチベットの歴史
第23回 朝鮮史(17世紀前半まで)
使い方1.通読―歴史の流れを意識しつつ、音読も効果的
2.別冊の講義プリントで重要知識を総チェック
3.講義のあとはできるだけ早く問題演習
その他・7種類の世界史探究の教科書に準拠
・教科書掲載の時代と地域、文化史を含むすべての分野を網羅
・時代や地域の配列は山川出版社の「詳説世界史探究」に従う
・世界史年表に沿った音声授業を無料ダウンロード可

 本書には少ないながら問題もあるにはあるのですが、全て講義と言って良いと思います。著者の青木先生は『合格へのトライ 世界史探究マスター問題集』を問題集として薦めていました。『合格へのトライ』は教科書準拠の穴埋めドリルのようなものなので、講義のあとに使用する問題集として飛躍がなくて使いやすいと思います。入試問題を意識しすぎかもしれませんが、個人的には『HISTORIA 世界史探究精選問題集』もオススメです。『世界史探究 書きこみ教科書詳説世界史』や『時代と流れで覚える!世界史用語』も良い。基本的に講義を受けたあとにすぐ該当の単元を問題集で確認すること。加えて、講義系参考書と教科書を行き来して、講義系参考書によって広げられた風呂敷を教科書の要点で畳む意識は大切だろうと思います。教科書は要点、それすなわち論述対策の答えとしても参考にしやすい。

論述問題では「文」が解答の基礎単位となり, 複数の「文」のかたまりである「文章」単位の記憶が必要となります。そして, 文章単位で記憶し, それを解答用紙に書けるようにするためには, 歴史の流れの理解や, 時代全体を大づかみに把握する努力が必要になります。本授業(本書)では, このような要求に対応できるように, 単に事実を並べるだけではなく, 相互の因果関係の説明に時間(ページ)をさきました。ページ数の制約が厳しい教科書と違って, 『実況中継』にはそれができるのです。
世界史探究授業の実況中継1 P5より引用

 かつて当サイトで紹介した『歴史総合 世界史探究 流れと枠組みを整理して理解する』の要素を含んでいます。もっとも講義系参考書というのは元来そういうものですが、本書シリーズの圧倒的な量によって実現される網羅性は心強いと思います。講義を受けながら理想的な知識体系になっていくというのは一石二鳥。国語力も上がるなら最高。個人的には講義系参考書を再評価する形になりました。ちなみに読むときのちょっとしたコツとして、読んでいる箇所以外を紙か何かで隠しながら読むのもオススメです。意外と読んでいる箇所以外の文字は視覚ノイズになり得るのと、読んでいる箇所に焦点が合う分だけ集中できている気がします。大した話ではありませんが、最近眼の疲れが気になることが増えて試行錯誤中です。

講義系参考書の分量から敬遠したくなる気持ちはわかります。特に中堅私大・地方国公立志望には重いのではと懸念する部分があります。しかし、全体的に非常に読みやすく、先に述べた通り歴史科目はできるだけ豊かな土台で知識を集めた方が結果的に定着も早いです。大人の学び直しにも非常にオススメです。

歴史科目からの学び―人間の思考と知識の整理

 人間の思考は直感的で直線的なものの方が理解も実行もしやすいのだろうと思います。例えば、庭に落ちている石を拾い集めるとき、目の前にある石を拾い続ける方針が人間は最もわかりやすく感じるはずです。直感的、すなわち目の前にあるものへの反応。直線的、すなわちそれを同じように続けること。おそらくこれが最も思考に負荷をかけない、端的に言えば楽なのです。逆に庭全体の石の量を把握しながら均等に拾い集めてほしいと指示されたとしたら、思考は「全体→部分(部分→全体)」を往復することになり、率直に面倒だと感じますよね。付け加えると、これらは受動的な場面では顕著に発揮され、「これさえやっておけばいい」という方針に多くの人が飛びつきます。

 勉強とは考えることが基礎ですから、考えない人は勉強が苦手になるのも必然。考えないというのは言ってしまえば場当たり的な情報処理ばかりに頼ってしまうということ。そこに感情や精神(コンプレックスなど)も加わると、よりいっそう目の前にあるものに反応してばかりになります。この処理の仕方ではいつまでも全体が見えず、自分が何のために何をやっているのかがわからなくなってしまうのです。表面ばかりで構造的に見ることができない状態と言っても良い。例えば、これは国語や英語の文章読解を想像するとわかりやすい。読解の基礎は一文を正確に読み進めることですが、難関大にある語数の多い長文になると「木を見て森を見ず」に陥るため、構造に着目する読解も加える必要がありますよね。「全体と部分」の両輪で読解した方がより正確になるわけです。※レイヤーは異なりますが、考えない工夫を考えることは大切。

 他方で、数学は難関国公立の証明問題で必要となる論証と横断的な思考は例外としても、多くは場当たり的な思考でどうにかなってしまいます。そもそも覚える量も少ないですから、単元(カテゴリー)への意識が希薄でも問題は相対的に小さい。では、歴史科目はどうなのかというと、空所補充のような問題は場当たり的な思考で解けると言っても良いかもしれませんが、それを解くにしても大量の知識をあらかじめインプットしなければならず、時代(カテゴリー)ごとに適切に引き出すことまで想定すると、勉強の段階から「知識の整理」という視点が欠かせません。「歴史科目は暗記科目である」は半分正しいのですが、愚直に、つまり場当たり的に目の前にあるものを暗記するだけではどこかで詰まります。歴史科目だけではありませんからね。そして、思考のブレイクスルーで言うと、受験勉強レベルの強度で知識を詰め込んだときに人間は知識の整理、工夫を無意識的に習得するのではないか、習得できたから大きく成長できたのではないかと発展的に考えたくなります。

難関大に合格するような人は全員記憶力に優れているか、確かに平均以上の記憶力は持ち合わせているのかもしれませんが、記憶力による力技だけでどうにかなる量ではなく、記憶しやすい工夫を随所に施していると考える方が自然な気がします。記憶のメカニズムは複雑です。目の前のある知識に反応するのではなく、意図的に操作してみること。これによって勉強そのものが良い意味で変わると思います。歴史科目は教養と考える以上に、個人的には思考の学びがある科目です。

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