新版 現代文 読解の基礎講義

タイトル現代文 読解の基礎講義
出版社文英堂
出版年・価格2024/8/1 1760円
著者中野 芳樹
目的・分類現代文読解
問題・ページ数416ページ
総合評価
対象・到達レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達レベル

【対象】
・旧帝大、難関国公立志望(記述対策)
・現代文が得意な人(偏差値65以上)、硬い文章に抵抗がない人
・大人の学び直しから国語や英語教員、講師にもオススメ

【到達】
・現代文が論理によって安定するようになる
・論理的な読解によって背景知識の不足を補える
※本書はすでに高いレベルにある人がより安定するものと位置づけたい。

 本書は2012年刊の『現代文 読解の基礎講義』をリニューアルしたものです。もともと伝説的な参考書として非常に高く評価されていました。その人気ゆえに絶版となって以降も高値で取引されている状況が続いたほどです。そうした状況を案じた著者自ら、大幅な加筆修正を加えて復刊したものが本書になります。

 本書は『現代文と格闘する』に近い硬い文章とともに、論理的な読解を徹底して行う方法を述べています。現代文は日本語(自然言語)の性質上、どうしても曖昧模糊とした感覚を抱きながら読んでしまいがちです。特に難関大頻出の抽象度の高い文章では、そうした曖昧な部分に惑わされ、選択肢を誤るということが起こります。そこで徹底的に曖昧な部分を排除する読み方、論理的な読解をこれでもかと教えています。勝手読みをしない、自己解釈に走らない、文章中の客観的な根拠なくして解答を記述しない。

実は論理的な文章の初読では、実際以上に難解に感じてしまう箇所がいくつかある。読みはじめは主題不明なので、「話が見えてこない」状態であり、具体例か本論かの区別すらつかないこともある。また、本文の後半で結論の論拠が先に述べられている場合には、結論を提示される前にその論拠を読むので、「だから、何?」という状態になる。「評論は難しくて読めない」のではなく、「評論の初読における制約により必然的に理解困難」なのである。初読の途中で「論構成を把握しつつ読む」ことなど、原理的には不可能である。

新版 現代文読解の基礎講義 P33より引用

 このように現代文の試験特有の事情を押さえながら、そこからどのように読めば良いのかを教えてくれます。刺さる人には刺さる内容になっているのは間違いありませんが、本書のエッセンスまで辿り着ける現役生、および大人はどれほどいるのかと疑問に思ってしまうくらいに一筋縄ではいかない内容と思います。実際は国語教員や予備校講師向けの参考書と言っても良いのではないかと思わなくもありません。

万人受けしやすく、得点に結びつく参考書という意味では『現代文読解力の開発講座』と『現代文解答力の開発講座』がオススメです。本書は難関大で出題されるような「抽象度の高い文章対策」として、さらに相性が合えば難関突破の力になりますが、現役生の多くは本書以前にやるべきことがたくさんあるでしょう。

国語力を陰から支える数学と英語

 現役生は本書に取り組む前に、数学や英語によって国語力を伸ばす方針も考えたいところです。安易に本書を手に取るべきではないとも言えます。数学は定義によって積み重ねられる学問と言っていい側面がありますから、定義以上の認識や解釈をしてはならないことを無意識的に学びます。論理とは何かを最も教えてくれる科目が数学なのです。

 私たちが物事を理解する際、対比によって理解が進むことがありますよね。甘いもののあとに辛いものを食べたら対比によって際立ちます(双方の理解が進む)。同様に、数学による隙のない論理によって自然言語(国語)の論理性を際立たせ、解答を惑わす曖昧な部分に焦点を当てられるようになるわけです。文章の幹を意識する視点が養われます。

 そして、英語は日本語よりも論理性が明瞭なため、情報構造によって主張を把握しやすいところから日本語の対比的な理解が進みます。これは大学受験レベルの英文がそこまで難解ではないことも手伝っているかもしれません。文章の枝葉を取り除く視点が養われます。

論理的な読解を総点検

 では、本書の利点とは何かというと、自身の論理的な読解を総点検できるところです。本書には「客観的速読法」や「論理的解答法」、マーキングといったものはテクニックらしいものが提示されていますが、それらは論理的な読解を十分に理解した上で用いるとよりいっそうわかりやすくなるものに過ぎません。

読者ごとに異なる「ここが大事だと思う」といった主観的判断ではなく、筆者当人が表現法を工夫して記したメッセージであるという客観的な根拠に基づく判断であるから、確実に「正しさ」が保証されている。これが読解法の原理である。

新版 現代文読解の基礎講義 P20-21より引用

 本書の方針は客観的な読解、すなわち文章そのものの意味や構成、筆者の工夫から解答を導くことにあります。背景知識を用いた読解でも、自分の感触を頼りにするものでもありません。徹底的な論理によって、読解の甘さを追い詰めてくれる参考書です。理系的な読み方と言ったらわかりやすいかもしれません。自然言語を究極的には記号論理のように捉えてしまえば、数式を解くような再現性に繋がるわけです。特に大学受験の現代文は、高校生が解答を正しく導けるものしか出題されません。ある意味、それを逆手に取れば本書のような方法論に帰結するのもわかります。

 ただ、私大の癖が強い問題(奇問含む)の場合、どうしても背景知識を必要とするもの、なければ導けないものもあるでしょう。そうしたものは現代文が要求するべき論理的な思考力とは少し異なると言えなくもないような気もしますが、言語的な文章とは知識や文脈、延いては時代によって暗黙的に補完されるものにも支えられてるのは事実です。つまり、本書だけが全てではないものの、本書の論理的な読解こそが現代文の基礎であるという点はその通りだと思います。本書の基礎は簡単という意味ではなく、重厚で揺るがない土台なのです。

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