タイトル | 大学入試 英熟語 最前線1515 | |||||||||||
出版社 | 研究社 | |||||||||||
出版年 | 2024/4/23 | |||||||||||
著者 | 石橋 草侍、里中 哲彦、島田 浩史 | |||||||||||
目的 | 難関大向け英熟語 | |||||||||||
対象 | 偏差値60以上の大学を目指す受験生 | |||||||||||
分量 | 320ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
AI | 手の届きにくい比喩・ことわざ・口語表現の知識を広げる | |||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
難関大向け熟語帳の決定版
本書は2024年に研究社から出版された大学入試向けの熟語帳です。難関大向けの熟語帳は古くから『解体英熟語』が支持されていましたが、待てども待てども改訂されません。確かに大学入試の熟語の本質はそこまで変化がないため、使えないことは全くなく、他に有力な選択肢がないから使うという人が現状でも多くいると思います。では、他の熟語帳はどうかというと、例えば『速読英熟語』や『ターゲット1000』などは偏差値60~65までの大学(MARCHや関関同立、準難関国公立)には有用でも、特に早慶を想定した場合には心許ない内容になっています。
加えて、それらの熟語帳は『速読英単語[必修編]第8版』のような非の打ちどころのない完成度ではなく、正直まだまだ改善の余地があります。その中で個人的に難関大向けとして『キクジュクSuper』(2023年出版)を推しているのですが、なぜだか全く注目を集めないまま、おそらく多くの受験生は『速読英熟語』や『解体英熟語』を使い続けています。ちなみに難関大対策を含む『システム英熟語』(2019年出版)も悪くない選択肢。
そこで本書です。まず、難関大対策を謳い、最新の入試傾向が反映されているという事実だけで高く評価できる上に、前述した通り熟語帳はこれといった一冊がないので本書一択になってもおかしくありません。しかも手の届きにくい比喩・ことわざ・口語表現も取り扱っているため、わざわざ『肘井学の英語会話問題が面白いほど解ける本』のような専用の参考書で対策するほどではない受験生にとってベストな一冊になり得ます。今でも『Next Stage 英文法・語法問題 4th edition』のような文法問題集を使用している人にとってはそれらの知識は特別必要なものではありませんが、当サイトで推奨する『英文法・語法良問500+4技能』然り、今は文法問題集で取り扱われていないことが増えているので熟語帳で補完できるなら理想的と言えます。
本書の構成
Part 1 最頻出の慣用表現グループ 375項目
Part 2 最頻出の基本熟語 205項目
Part 3 読解で狙われる重要熟語 I(1義) 394項目
Part 4 読解で狙われる重要熟語 II(多義) 150項目
Part 5 難関大を突破する最前線の熟語 127項目
Part 6 難関大を突破する比喩表現 102項目
Part 7 合否を分けることわざ・名言 99項目
Part 8 合否を分ける口語表現 149項目
コラム of+抽象名詞/as is often the case with Aという冗漫/交換・代用・代理を示すfor/願望・目標・目的を表すfor/with+抽象名詞=副詞/at・by・in・on+抽象名詞/on は“接触”のイメージ/underは「影響下・状況下・管理下」を表す/beyondは「超越」を表す/toは「調和・一致・適合」を表す/as of Aの謎/点を表すat/語源の食い違い/生物を使ってたとえる as…as 構文/A is to B what C is to D.の文構造/聖書の英語(1)/聖書の英語(2)/難関大で狙われる比喩表現/意外な意味を持つ名詞/speak ill of Aの不自然/色を使った慣用表現/電話・メールに関する口語表現/難関大で狙われる口語表現(1)/would rather のミステリー/難関大で狙われる口語表現(2)
※レベル1―中堅大 レベル2―難関大
※音声ダウンロード可能
レベル別に分けられているため、中堅大志望でも本書は有用です。完全に受験生と同じ立場からは語れないのですが、ある程度熟語を覚えた経験のある人にとっては当たり前のものも数多く並んでいます。難関大向けの熟語と言っても、全体的に単語から類推できるものも多いので難しすぎるわけではありません。本書よりも出版年が古いだけあって『解体英熟語』の方が難熟語が多めです。本書シリーズの『英単語 最前線 2500』の方が明確に見慣れない単語が並んでいました。はっきりと早慶向けと言って良い内容。
レイアウトに関しては特筆すべきことはありませんが、熟語によって補足情報が追加されているので味気ない暗記を回避できます。Part 1とPart 2はかなり基礎的な熟語がまとめられているため、本書で覚えるよりも文法問題集に取り組みながら覚えたいところです。『速読英熟語』のコンセプト然り、熟語は熟語帳でひとつずつ覚えるよりも本当は文中から覚えていきたいもので、問題形式で語法を中心に覚えるのも有効な手段になります。
コラム as is often the case with A という冗漫
多くの英語参考書は、主節の一部や全体を先行詞とする関係代名詞(=as)を使った慣用表現として、as is often the case with A「Aにはよくあることであるが」を挙げている。
As is often the case with Ann, she left her wallet at home today.
「よくあることだが, アンはきょうも財布を家に忘れてきた.」
しかし、多くの英語母語話者によれば、冗漫な(wordy)ため、この熟語を「日常生活では使うことはまずない」という。少なくとも彼が慣れ親しんでいるイディオムではないのである。
As usual, Ann left her wallet at home today.
As Ann often does, she left her wallet at home today.
このように、ネイティブスピーカーは as usual「いつものように、例のごとく」/ as S often do「Sがよくするように」という表現を好んで用いる。短くて簡便な言い方をするのが現代英語の特徴である。
大学入試 英熟語 最前線1515 P39より引用
文法問題集には残っていたりする「as is often the case with A」という慣用表現がコラムとして取り上げられていることで、最新の入試傾向をきちんと加味している安心感に地味に繋がっています。ただ、その他のコラム「点を表す at」などは一般的な文法書で当たり前に取り上げられているテーマなので、わざわざ取り上げる必要があるのか、またそれを取り上げるなら前置詞のコアイメージに関する情報は一通り載せて欲しかったのが本音です。というのも、熟語を覚える上で前置詞/副詞のコアイメージを押さえられていると、単語との組み合わせで簡単に類推できるようになるからです。なので、熟語暗記に苦戦している人は理想を言えば『DUO elements』などで前置詞/副詞のコアイメージを先に理解しておくとより良いと思います。
ちなみに『キクジュクSuper』には「交換・代用・代理を示すfor/願望・目標・目的を表すfor」などの情報がTipsとして一通り載っています。なぜその熟語がその意味になるのかといった疑問がある程度解消されます。「go+前置詞」であらゆるパターンを覚えるのではなく、goと前置詞それぞれのコアイメージから自然とそれっぽい意味を導けるようになれば暗記がかなり捗ります。できるだけ無機質な情報にしないこと。
一方、コアイメージから容易に類推できる熟語は仮に知らなかったとしてもなんとかなりますが、比喩・ことわざ・口語表現に関しては知識がないとほとんどわかりません。これを熟語帳に組み込んでいる点は素晴らしいと思いました。京大英作文のように“知ってさえすれば”本番の得点と時間短縮に繋がるものは覚えておくに越したことはありませんから。ただ、京大英作文にしても、前後の文脈から推測できるような問題にはなっていますし、問題の意図としてはその知識の有無ではないでしょう。ことわざは網羅するというより、日本語との対応を考えて応用する力に繋げたいところです。試験に出るから本気で覚えるというより、英語のことわざの構造と言い回しの妙を知っている方が大切。
過去問とAIで枝葉を押さえる
現状『速読英熟語』や『ターゲット1000』などでは難関大対策を行うには少し心許ないと述べましたが、熟語に関しては難関大という括りでまとめる性質ではないのではとも推測できます。大学入試の括りで言うと、確かに『英単語 最前線 2500』で取り上げられているような頻出テーマがあり、頻出テーマがあるということは文章には一定の傾向があるわけですから、テーマと単語には高い相関があるというのは理解できます。例えば、医療なら医療系の単語がないと文章を作れませんからね。
しかし、熟語はテーマとの相関が必ずしも高くなく、高いとすれば『ターゲット1000』などに収録されている約1000語の汎用性の方なのではと思います。医療だからこの熟語がないと語れないということは考えにくいでしょう。加えて、現代受験英語は難熟語・難構文よりも語数の多い長文、汎用性の高い熟語が優先される傾向にあります。事実、本書は「現代ではほとんど用いられることのない熟語は省いている」と述べ、全体的に難関大対策と謳いながらも基礎熟語が多めに映ります。高校1、2年生の早い時期から重要熟語を押さえるために「本書」を選ぶならとても良い選択ですが、難関大対策を地で行くと思って取り組まない方が無難な気がします。これといった一冊がないのも必然なわけです。
数学の難問対策然り、志望校の過去問を優先して考えた結果、本書がどういった位置づけになるか。過去問から得られた未知の単語・熟語をまとめ、頻出テーマに基づく文章と単語・熟語をAIに生成してもらいながら、本書の優先順位を定めないと頻度の低い熟語暗記に時間を奪われてしまいかねません。この意味では『ターゲット1000』や『速読英熟語』で基礎~標準の熟語をしっかりと押さえたあとに過去問とAIで枝葉を押さえる方針も有力です。本書はレベル別・頻度別に並んでいることからその心配は小さいものですが、本当に全てを暗記しようと思わなくて良いと思います。