中高一貫の数学―レベル・難易度・特徴【レビュー】

タイトル中高一貫の数学 中学数式編 中学図形編
出版社東京出版
出版年2000/9/1~2001/3/28
著者東京出版編集部
目的高校生の中学数学復習
分量130ページ前後
評価
レベル中学復習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達

【対象】
・中高一貫校に通う中学生、中学2年生までの教科書レベルを終えている人
・大学受験に備えて中学数学を復習したい高校生
・高校数学への接続を意識しながら中学数学を学び直したい大人

【到達】
・大学受験のために土台となる中学数学を理解できる

 本書は受験数学の参考書で定評のある「東京出版」から出版されている中学数学の参考書です。東京出版と言えば、『1対1対応の演習』や『新数学スタンダード演習』、最近では『真・解法への道』など大学受験向けが非常に有名ですが、小学算数から主に難関校向けの参考書も数多く出版しており、本書は中高一貫校向けに書かれたものになっています。中高一貫校は高校受験がなく、大学受験に備えて6年間を過ごすにあたっての最適な参考書が少なかったというのが本書の背景にあります。

 中高一貫校向けには数研出版の『体系数学』が古くから有名でしたが、こちらは参考書と問題集が合計8冊もあり、難関校の現役生ならまだしも一般的な高校生の中学復習や大人の学び直しには重すぎる内容です。それに対して、本書は高校数学の土台となる中学数学の知識に徹底的にフォーカスして「数式と図形で200項目ずつ」に整理しています。東京出版ならではのページ数の少なさも取り組むハードルを下げてくれています。難関高校に合格できる程度にまで思考力を引き上げながら、大学受験に必要な中学数学を網羅できる利点は高く評価できるものです。

本書は必要最低限の問題は扱われていますが、問題集に分類されるほどではありません。大学受験に必要な中学数学の項目を合計400に整理した参考書です。辞書利用にも向いています。

大学受験のための中学数学の復習としての評価

 まず、中高一貫校向けに書かれてあるため、全体的に難易度は高いです。難しい中学受験を突破した子はすでに本書に取り組むだけの前提知識(中学2年生までの教科書レベル)を備えていますが、東京出版特有の無味乾燥としたレイアウトもあって一般的な中学生には推奨できません。「大学受験のために中学数学を復習したい」と考える高校生から選択肢に入ります。それでも数学が得意か、高校偏差値65以上は欲しいかもしれません。基本的に東京出版の参考書は「進学校向け」と考えています。

 しかし、大学受験のための土台作りを意識した中学数学の参考書はそれほど数がありません。トップ層を除き、多くの高校生は中学レベルでも抜け落ちているところがありますから、それを効率的に補完できる参考書が必要です。その点で「教科書」は単純な知識を補完するなら良いのですが、全体的に問題数と難易度が心許なく、中学数学を身体で理解するまでにはならないと思います。大学受験を想定すると「教科書+α」=「高校偏差値60程度」と言えるだけの数学力が欲しいところです

 そこで本書をやや強引にでも選択肢に入れて良いのではと思います。本書の欠点は出版年が古く、最新の学習指導要領に基づいていないところ(統計関連がない)ですが、中学数学の大部分は変わっていないために大きな問題はなく、大学受験のための土台作りをコンセプトに設計されていること、合計400項目が難関大を想定しても十分な土台であること、高校数学に必要な知識を復習しやすいことなど余りある利点があります。

「薄い参考書一冊で済む」という心理的な利点は受験勉強において意外と大きいものです。今やAIに質問すれば何でも答えてくれますから、仮に数学がそこまで得意でもなく、高校偏差値65以上ではなかったとしても本書を軸にできる環境はあります。

スタートダッシュ中学数学、レベルアップ演習、Highスタンダード演習との比較

 大学受験、および大人の学び直しとして中学数学を復習する場合、東京出版から出版されている参考書では『スタートダッシュ中学数学』『レベルアップ演習』『Highスタンダード演習』の3冊がオススメです。大学受験において「教科書~入試基礎レベル」を入念に取り組むように、高校数学の基礎となる中学数学もくどいくらいに取り組む方が結果的により良いという考えもあります。

スタートダッシュ中学数学』—教科書で復習するのが面倒な人にはオススメ。中学受験を終えた小学生向けに中学数学を概観しながら約100問を解く仕様になっています。問題の難易度は「教科書+α」で高校偏差値なら「50」と言ったところです。
レベルアップ演習』—高校偏差値「60」想定の問題集です。『教科書 or スタートダッシュ中学数学→レベルアップ問題集』で問題数を確保しながら中学復習を終えられます。※ここまでは取り組みたい
Highスタンダード演習』—高校偏差値「65」想定の問題集です。大学受験のための中学数学の復習としてはやや過剰ですが、応用を解く感覚は高校数学にも活かせるので取り組んでも損はありません。

 大人の学び直しならその3冊はオススメですが、大学受験想定ならもう少し効率を上げたいので本書の優位性は無視できなくなります。難関大志望なら本書をどうにか使いこなしたいけれど、難関大以外なら必要ないという線引きがちょうど良いかもしれません。大学偏差値60未満を志望する人は『スタートダッシュ中学数学』だけでも終わらせると、高校数学で大きな問題は生じなくなります。数学が大の苦手なら教科書も優秀ですが、そこまで苦手ではないなら東京出版の参考書がコンパクトで使いやすいと思います。

どうしても中高一貫校向けの参考書は難易度が高くなりがちで、高校偏差値60未満から大学偏差値60前後を志望する層には過剰に映ります。過剰に映るけれど、ここまでやれたら十分と言えるのも事実。他方で教科書による復習は中学生向けの文章によるデメリットの方が大きく映ってしまうのです。中学数学を復習するにしても、高校生には高校生向けの文章で復習してほしい。そう考えると、高校生が本書に取り組むのも悪くないという結論です。

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