数研出版 数学NEXTシリーズ

タイトル数学 NEXTシリーズ
出版社数研出版
出版年・価格2022年
著者岡部 恒治 他9名+編集協力2名
目的・分類高校数学教科書
ページ数数学I 256、A 200、II 288、B 164、III 244、C 216
総合評価
対象・到達レベル日常学習教科書基礎教科書標準入試基礎入試標準入試発展
※全統模試目安 [教科書基礎=40~45][教科書標準=45~50][入試基礎=50~55][入試標準=55~65][入試発展=65~70]
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部

対象・到達レベル

【対象】
・本質的な理解を促したい高校生、高校数学を学びたい大人

【到達】
・全統模試偏差値55程度まで

 本書はチャート式で有名な数研出版から出版されている数学の教科書「NEXTシリーズ」です。高校偏差値65以上の進学校で最も採用されている数学の教科書は数研出版の「数学シリーズ」ですが、それよりも少しレベルを落とした教科書が本書になります。※教科書は「教科書取次店」で購入することができます。

Q.教科書にも種類があるの?
中学までの教科書には難易度に差が設けられておらず、出版社による違いしかありません。しかし、高校からは学校の方針やレベルに合わせて数種類の教科書が出版されています。数研出版の場合、数学に力を入れていることもあってか、「数学シリーズ」、「NEXTシリーズ」、「高校学校シリーズ」、「新編シリーズ」、「最新シリーズ」、「新高校の数学シリーズ」と6種類も出版しています。※多くの出版社は3種類

 それぞれの教科書で扱われている章末問題や総合問題、および以下の傍用問題集の難易度から推測すると、進学校で最も採用されている最高難易度の「数学シリーズ」は全統模試偏差値を目安に55~60、「NEXTシリーズ」と「高等学校シリーズ」50~55、「新編シリーズ」50、「最新シリーズ」45、「新高校の数学シリーズ」は40~45といったところです

『数学シリーズ』は応用例題や練習問題からすでに入試問題における重要な論点を扱っています。
『NEXTシリーズ』はトピックに対する本質的な論点を例題と共に提示し、練習問題では答えの誘導をなくして自ら考えられるように配慮しています。考える癖をつけるための教科書という印象。
『高等学校シリーズ』は数学シリーズと同様に解法暗記的ですが、問題のレベルが一段階下がっています。数学シリーズの応用例題で扱われているものが高等学校シリーズでは章末問題にあります。
※『数学シリーズ』は明確に入試問題を意識した問題構成となっており、これをもとに学校の定期テストが作成されるとしたら相当力がつくのがわかります。また、そのように教科書がすでにチャート式の性質を持っているため、『数学シリーズ』を採用しているならチャート式は「青」がちょうど良い気がします。

 大学受験では頻繁に「教科書レベル」という言葉が様々な文脈で用いられていますが、このように教科書には難易度の差が設けられているため、「教科書レベルを完璧にしたら〇〇大学に合格できる」という話を鵜呑みにできません。ただ、四年制大学への進学を考える層は高校偏差値50あたりから右肩上がりに増えていくため、そこで採用されている教科書は「数学シリーズ」、「NEXTシリーズ」、「高等学校シリーズ」とすれば、教科書レベルを完璧にしたら「全統模試偏差値55前後」と考えるのが妥当と思います。

※数研出版サイトからの引用

教科書は知の集合

 教科書は全国の高校生が使用するものですから、執筆者は非常に大きな責任を伴います。文科省が告示する「学習指導要領」に基づき、専門家が話し合いを重ね、文科省による検定を経て子供たちの手元に届きます。特に生物や化学などの自然科学系の教科書を読むと実感しますが、子供たちの理解を真剣に考えた構成や学習の順序、単元ごとの情報量、無駄のない濃密な文章は“知の集合”とも言える作品として評価したくなるほどです

 確かに予備校から出版される参考書はわかりやすい。教科書の濃密な文章は硬く、子供には味気なく映るのも否定しませんが、これだけ作り込まれた教科書を無視する利点は小さい。受験勉強でも、大人の学び直しでも、まずは教科書を上手に活用する方針を立てることが有力と考えています。

教科書を軸にした基礎基本の徹底

※前提として、大人が読む分には全て有用ですが、受験勉強に限った場合、以下のように評価しています。

【教科書が有用な科目】
日本史、世界史、地理(新詳地図)、数学、化学、生物、物理、地学、公共、倫理、政治経済、情報

【意外と有用な科目】
国語(論説、小説、古文漢文)

【特別必要ではない科目】
英語

 日本史と世界史は教科書の有用性が頻繁に語られますが、個人的には生物や化学の有用性が高いと感じています。日本史と世界史は大雑把に時代の流れと要点を押さえる分には有用ですが、教科書だけでは理解を伴わず、丸暗記を強いられるばかりになると思います。教科書に補足情報を書き込んだり、別で教科書の理解を深めたりする必要があります。公共、倫理、政治経済、情報はそこそこ有用です。
 その点で生物や化学は理解を促しながら重要な知識をまとめています。教科書を繰り返し読み込むだけでも共通テストや入試基礎への力になるでしょう。物理は数学で言う解法暗記で十分に問題は解けるようになりますが、全体的な理解を伴っている方が記憶の定着率が高くなるのでオススメ。
 国語は論説・小説ともに文章読解の方法が解説され、古文漢文も文法は押さえられています。使い方によっては参考書や問題集も最低限で済みます。英語は教科書の有用性が最も低く、多読参考書の一つとして考えましょう。

 本書をオススメしたい理由は本質的な理解を促すことをコンセプトに、高校数学の基本を徹底できる程良い難易度になっているからです。数学の受験勉強ではチャート式が有名ですが、いきなり教科書を無視して取り組むのはオススメできません。教科書をしっかり読み込み、例題と応用例題、章末問題を繰り返し解くだけでも力になるからです。やる気になれば現役生は夏休みに高校3年間分の範囲を終わらせてしまうこともできます。大人なら3ヵ月程度が目安。基礎基本は短期集中で一気に詰め込むのが非常にオススメです。英文法にしても同じ。

 その後は傍用問題集ではなく、チャート式がオススメ。傍用問題集は学校専売のものもあり、解説も丁寧とは言えません。どのチャート式を選べば良いのかというと、以下の難易度表から少し解説したいと思います。

 チャート式は必須ではありませんが、教科書の問題数と網羅性では心許ないのも事実です。教科書を押さえたあとに志望校の過去問に取り組み、そこで得られた課題からチャート式の必要性を見極めて取り組んでほしいと思います。そして、教科書の傍用問題集の代わりとして、教科書レベルを完璧にするなら『白チャート』がオススメです。

 本書(教科書)をしっかり終えたなら黄チャートもありです。教科書を飛ばしてチャート式(特に黄と青)から取り組んでほしくない理由は、例題が教科書を終えている前提のような変化球が多いからです。例題の難易度そのものは高くないのですが、その例題を基本として欲しくありません。あくまで「チャート式」は教科書と授業の補助教材(より入試を意識した問題)であることがわかります。その点で白チャートは教科書の傍用問題集に位置付けても全く違和感がなく、基本ゆえの膨大な問題数も現実的に網羅できます。

チャート式以外の参考書、例えば『文系の数学 重要事項完全習得』や『1対1対応の演習』なども全て教科書をしっかり終えたあとに取り組むことで大きな効果を発揮します。教科書の土台としての価値は大きい。

教科書を用いた受験戦略

 東大や早慶を目指す場合、教科書から難問に繋げるためには何冊もの参考書が必要と感じるかもしれません。確かに難問対策には相応の参考書が必要になりますが、入試標準レベルまでを完璧にするだけでも合格点に達することを考えると、実は東大や早慶であってもそこまで多くの参考書は必要ありません。何より教科書が出題範囲であることも忘れてはいけません。それよりも難易度の低い大学なら明確に「教科書+αと過去問」で勝負できます。例えば、数学なら「教科書+黄チャート+過去問」で合格できる大学は山ほどあるでしょう。

 人間は“無いなら無いなり”に考える力があります。つまり、教科書という基礎基本の理解からどこまでの問題が解けるか背伸びして考えてみるだけで、一冊の教科書や参考書から応用力が伸びます。応用力が伸びれば、本番の問題で怯むことも減り、本当に必要な課題(次の段階)も見えてきます。これが教科書を軸にする受験戦略の利点です。決して教科書だけで十分とは言いませんが、参考書の冊数を増やすより、本当に自分にとって意味のある参考書を徹底的にやり込んでほしいというのが私の主張です。教科書にも優れた手札が揃っていますから。

東大数学は「教科書を大切にしている」と評されることがあります。教科書の基本は簡単という意味ではなく、本質的であるということなのだろうと思います。もちろん、これは特に国公立の入試が教科書の内容から逸脱しないようにという意味もありますが、応用力とは小手先のテクニックではなく、常に基本から伸びているもの。応用力、すなわち考える力とは、一を聞いて十を知ろうとするものに与えられるのかもしれません。

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