タイトル | 読んで見て聞いて覚える 重要古文単語315 | |||||||||||
出版社 | 桐原書店 | |||||||||||
出版年 | 2024/1/12 | |||||||||||
著者 | 武田 博幸、鞆森 祥悟 | |||||||||||
目的 | 古文単語 | |||||||||||
分量 | 320ページ | |||||||||||
評価 | ||||||||||||
レベル | 日常学習 | 教科書基礎 | 教科書標準 | 入試基礎 | 入試標準 | 入試発展 | ||||||
※入試基礎=日東駒専、地方国公立 入試標準=MARCH、関関同立、準難関国公立(地方医含む) 入試発展=旧帝大上位、早慶、医学部
対象・到達
【対象】
・古文単語と一緒に背景知識も得たい人
・共通テストで高得点を獲りたい人、難関大志望
・音声付きの単語帳を探している人、入試問題も参照したい人
・単語の補足情報が充実しているので、大人の学び直しにも
【到達】
・大学入試古文に必要な単語を網羅できる(難関国公立・難関私立にも対応可能)
本書は2024年に桐原書店から四訂版として出版された古文単語の参考書です。古文単語と言えば、かつては『マドンナ古文単語』と『古文単語ゴロゴ』が人気を二分していましたが、今では本書が古文単語の筆頭として挙げられるまでに至っています。これはセンター試験から共通テストに変更されて以降、古文の難化が著しく、要求する単語数の増加が背景にあります。そこに充実した内容で対応した本書が注目を集めました。
センター試験であれば重要単語200~250語ほど覚えたあとにセンター試験特有の解法を身につけることで7割以上、8割も現実的に狙えました。ところが共通テスト(厳密にはセンター試験後期~共通テスト)では、センター試験のような対策が立てにくく、文章も長くなったために自然と網羅すべき単語数は増え、古典常識も以前より明確に要求されつつあります。配点が50→45点と下がったにもかかわらず、労力は1.5倍以上に増えています。
そんな中で本書は「重要単語315語+関連語221語+慣用句94語=630語」と網羅性は申し分ありません。全て覚えるかどうかは別としても、古文の難化傾向から網羅性の高い単語帳が“無難”という共通認識を得ています。センター試験では『マドンナ古文単語』のように収録語数が少なめのものでもタイパ重視で評価を得られていましたが、それは仮にわからない単語があったとしても答えを導けるテクニックで補完できたからです。共通テストにもそうしたテクニックはあるにはありますが、より本質的な能力を求められる流れを受けた「古文」は本腰を入れざるを得ない位置づけになったと思います。
本書の構成
※例文音読(見出し語315語)・入試問題を確認できるQRコード付き、索引あり
第一章「最重要語」―動詞/形容詞/形容動詞/名詞/副詞
第二章「重要語」―動詞/形容詞/形容動詞/名詞/副詞 さまざまな代名詞 主な呼応の副詞
敬語の章―敬語動詞/重要敬語動詞と主な意味・用法
慣用句の章―慣用句
古典常識の章―風流と教養 恋愛と結婚 宮中と貴族 その他
付録の章―古典の世界へ導く近現代の小説/和歌/識別(「ぬ」の識別、「ね」の識別など)/文学史
コラム―セットで一語・接頭語/「あはれなり」と「をかし」/現代語の意味もある!/文法力あっての単語力/たどってみると根っこは同じ/形容詞―プラス・マイナスでオッケイようし/贈り物、もらうのあげるのどっちなの?/帰ってみれば「怖い蟹?」/書かれてなくても見えてくる!/文学作品の背景知識と読解/前世からの因縁―「さるべきにや」の日/非常識は困りもの
助動詞一覧表/奈良時代の助動詞/動詞活用表/形容詞活用表/形容動詞活用表/助詞の主な意味・用法・接続/古典の色
例文音読と入試問題がQRコードを経由しないといけない手間を除けば、非の打ちどころがない単語帳と言って良いと思います。本書一冊だけでなんとかなってしまうのではないかと思うほどの充実度。単語の解説も複数の意味を取り扱い、全ての意味に例文(古文)がありますし、Tips(覚え方、入試での問われ方、背景、イラスト)も豊富です。
古文読解は知っている単語と文法を繋ぎ合わせるだけでは足りず、古典常識を補完して初めて文章の意味や問題の正答を導けることがあります。例えば、英語なら単語と文法を押さえておけば大意を読み間違うことはありません。現代文も文章の意味がひっくり返ることはありません。しかし、古文では古典常識がないために男女を間違ったり、単なる群衆の一人を重要人物と誤認したりといったことが起こり得ます。本書の優位性はそうした古文読解に活かせる周辺情報を押さえつつ、単語を覚えられる点にあります。※そうした問題の意図を読み取れると、古文は得点は安定します。点数を与える問題と奪う問題の違い。
「やさし(恥し・優し)」
下二段動詞「痩す(=やせる)」が形容詞化したもので、奈良時代には身が痩せ細るほど「つらい」、そこから「恥ずかしい」という気持ちを表すようになり、さらに平安時代に入って「(自分が恥ずかしくなるほど相手が)優美だ・上品だ・風流心がある」、そして鎌倉時代には「けなげだ・殊勝だ」の意味が加わりました。
読んで見て聞いて覚える 重要古文単語315 四訂版 P86より引用
古文はそもそも興味を抱けない現役生が多いために工夫を凝らした参考書もよく見かけるのですが、本書は正統派のつくりで知的好奇心を刺激する方向で信頼を得ています。万人受けしやすい。安心して受験生にも大人にも推奨できる参考書です。加えて本書は単純暗記型というより、理解暗記型。これは共通テストの流れと合致していて覚えたことが活きやすい。
マドンナ古文単語、古文単語ゴロゴとの比較
結論から言うと、本書が最もオススメです。レイアウトは『マドンナ古文単語』が見やすいのですが、収録語数と例文の質が良くありません。単語の意味から実際に読解するプロセスの意識づけが本書よりも劣ります。マドンナシリーズは文法を押さえる『マドンナ古文』が優秀です。
『古文単語ゴロゴ』との比較で言うと、まず個人的にゴロゴは好みです。古文に興味を持てない人は、ゴロゴのくだらないノリで少なくとも耐える科目として仕上げても良いと思っています。網羅性も十分。例文チェックも優秀。レイアウトも悪くない。難関私大対策として広く浅く押さえる使い方もできる。なんだかんだ記憶の定着率が最も高い暗記方法もゴロゴです。ただ、単語テストのように一語一訳さえできれば良いならゴロゴ一択なのですが、実際の入試問題は複数の意味を文脈に応じて当てはめなければならず、ゴロゴの覚え方はそれがあまり意識されていません。共通テストの流れに逆らう形にもなります。
共通テストを付け焼き刃で乗り切ることは難しい。二次試験を意識するとなおのこと。結局は本書のような正統派の単語帳で理解を深めながら覚えていくのが一番という結論です。冊数が増えても良いのなら、ひとまずゴロゴで高速暗記したあと、本書を用いて知識を補完しながら覚え直すのが理想になるかもしれません。さらに速読英単語形式の『読み解き古文単語 改訂版』で長文演習しながら単語を確認していくのもありです。
