田村のやさしく語る現代文・小論文―レベル・難易度・使い方・完成日数【レビュー】

田村のやさしく語る現代文・小論文
総合評価
( 4.5 )

対象・到達レベル

・現代文が苦手な人

・中学の日本語文法の知識を高校の評論文の読解に接続できる

・小論文の書き方を基礎の基礎から理解できる

 中学の説明文から高校の評論文への接続は語彙も内容の抽象度も上がるため、中学時代は国語の成績が悪くなかったという人でも躓くことが少なくありません。中学の説明文は曖昧な日本語感覚でもまだ正解を導けますが、高校の評論文はより厳密な論理的な思考で正解を導くことを要求されます。

 ちなみに勉強が苦手になるタイミングは中学2年生と高校2年生が最も多いと語られます。小学から中学、中学から高校へ。それぞれ1年生の間は中学なら小学課程に配慮した内容に留めているのに加え、気を引き締めて取り組む生徒も多いのでまだ綻びは見えにくいのですが、中学2年生と高校2年生になると完全に一段階上昇した内容に変わり、さらに気を緩めてしまう生徒も増えるために一気についていけなくなるわけです。

本書の構成・使い方

・現代文、小論文ともに約150ページ

・どちらも現代文とは何か?小論文とは何か?から始まり、現代文を読み解き、小論文を書くための数々の疑問に答える形式で構成されています。例:「現代文で客観的とはどうすることだろうか」「作文と小論文は何が違うのか」と学生が疑問に思う点を噛み砕きながら進みます。

 本書の使い方は『読んで理解する』に尽きます。現代文の勉強は即効性を感じにくく、参考書を使ったところで力がついているかどうかわかりません。それでも、なんとなく特別な感覚を抱き、実際に現代文を読み解く際に今までとは違った視点を持てるようになれたのなら問題ありません。重要な点は『なんとなく』から卒業し、『論理』という言語のパズル的な感覚を少しでも知ることです

本書の長所と国語力の伸ばし方

 国語力は全ての基礎であり、実社会においても非常に重要な能力に位置付けられています。言語的な能力が不十分では物事を理解することも応用することもままならず、厳しい競争を強いられてしまいますから。

 しかし、国語力を伸ばすにはどうしたら良いのか?という疑問に満足いく答えを返せる人は少ないかもしれません。第一に語彙力をつけるまでは誰でもできても、それ以上の読解や論理といった抽象性の高い事柄をどのように身につけるか、伝達するのかという点で詰まります。結果、とにかく評論文に触れて、読解や論理に無意識的に慣れていく方針を選択せざるを得ず、実際にそれが何だかんだ効果的ではあります。習うより慣れよ。

 もし、それでも効果を得られずに「自分には国語の才能がない」なんて落ち込みそうなときには、哲学と思想に触れてみるのがオススメです。そう、本書の長所とは、著者である田村先生が京都大学文学部哲学科を卒業されていることもあってか、論理や抽象的な思考をやさしく刺激してくれる内容になっている点です

 評論の中には具体的な事象を軸に論理を展開させるものも数多くありますが、それよりも最初から抽象性の高い哲学・思想関連の文章に触れて、より論理的な厳密性の感覚を養った方が手っ取り早いのではないかと感じています。難関大入試では特にそうした哲学・思想関連の文章が出題されますが、その理由はおそらく高度な抽象性・論理性に耐え得る学生に入学してほしいからです。

 ただ、所詮は高校生向けの入試であり、システマチックに攻略できると考える参考書も数多くあります。その方が再現性が高く、取り組みやすいという人は本書よりも『柳生好之の現代文ポラリス』などの問題集を最初から導入しましょう。

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